三十路バンドギャルの憧憬邪心LOVE Grail

もうルームシェアは諦めようかと営業マンに告げようとしたその夜、営業マンから電話があった。

明日、一人見学に行きますので、だそうだ。どうせまた妥協を恐れる小心者の男たちだ。

ああああ、でも、あの医学生の男の子、あれは惜しかったなぁ、と私は仰向けに寝転がり、あ、そろそろリノちゃんに変身する時間だ、とやはり起き上がる。


こういうダウナーな気分のときはV系を聴くに限る。

ノートパソコンの電源をONにしてHDDに保存してある【90年代】と名付けたプレイスストを開く。

高校生のときに聴いていたバンドのナンバーを集めてあるのだ。

最新のV系バンドみたく軽すぎず、世界観が色濃くて、ギターのフレージングもベタだが確りしている曲が多いのが特徴なのだ。九十七年、奇しくも伝説的ロックバンドの解散がヴィジュアルロックの知名度を上げた。


八十年代後半から活動を続けてきた地下バンドたちがメジャーに浮上するきっかけともなった。

同年、バンドの女装ファッションフリークからヴィジュアル系は大衆レベルにまで浸透した。

その後はバンド同士の熾烈な生き残りをかけた戦いが繰り広げられ、より個性的に、よりディープな世界観を構築していった。

七十年代の反社会ロックとは別種の、まるで現実世界を裏返しにしたような、美麗で、脆くて、儚くて、グロテスクで、暗黒で、残酷な世界。彼らは我々の現実世界を俯瞰しながらその闇を美しく、時に凄惨に表現する。


日常的に感知できる喜怒哀楽と、反吐が出るほどオメデタイ感情を単調に歌うものとはかけ離れた、まるで薔薇の棘のような楽曲は、私を異世界へと引き込み、変身させるの。


さぁ、目覚めなさい、今こそ覚醒。


風俗嬢、リノちゃん!

とか思って、鏡の前で目をバチッと開く。

自分が魔法少女漫画の主人公っぽく妄想する遊びも程々に、部屋を出て送迎車に乗る。