三十路バンドギャルの憧憬邪心LOVE Grail

私は化粧をして髪をセットし、服を着替え、バッグにiphoneを忍ばせ、イヤホンを耳に突っ込む。

流れてくるのは大好物のV系サウンド。

高校時代はバンギャルだった。

九十年代ヴィジュアル系第二黄金期に接触した私は、パンクロリータファッションで身包みを固め、地方ライヴハウスに遠征し、インディーズバンドの発掘に勤しみ、売れ線曲を真っ向から批判し、平平凡凡な本名である愛子を使いたくなくて自分を“藍琥”なんてハンドルネームをつけて満足していた方である。


黒歴史の一幕、イケない秘密の女子高生専門商売はこのときにやった。

貧しいコロッケ屋の娘がV系バンドのグッズや服を買うためにはメフィストフェレスに魂を売ることも厭わなかった時代があったのだ。


今でこそV系バンドをメタ的に楽しむことができるが、暗黒時代の私には、それはトリップするためのアイテムだったのだ。

一人はいるはずだ、スクールカースト内の各階級コミュニティにそぐわない一匹狼。

ミーハー集団から交わりを望まれぬ者だ。

私だってさ、みんなの人気者になって学園生活を謳歌したかったけど、あの時の私にそうした能力はなかった。

人に好かれるってのは性格もだが、能力といってもいい。十代の、しかも学園生活の中で、まずまず満足できる集団に入れたのなら、それはコミュニケーション能力の開花が他人よりも早熟なやつだってことだ。


私がわりかし正常に学園生活を送ることができたのは短大に入学してからだった。