ようやく演奏が終わっても拍手はなかった。
皆、驚きを隠せずにヒソヒソと話し出す。
――なんだ?今の演奏は。あれがあの鬼才ジュラの実力か?
――初見は苦手なのかしら?とてもぎこちなかったわ
――ジュラ・エーデシュもやはり人の子か…
漏れ聞こえるのはガッカリした声ばかり。
なぜレオンハルトはあんなふうに楽譜を突き付けたのだろう。
フローラは夫への怒りに肩を震わせた。
ジュラに対する失礼な態度に文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけた瞬間。
パチパチパチパチ…!
拍手が聞こえた。
見れば、ピアノの椅子に座ったままでジュラが一人、レオンハルトに向かって拍手を送っている。
「いやー、スゴイなぁ。やっぱり君の曲はガチで練習しなきゃ弾けないよ」



