「なら、これを弾いて下さい」
ツカツカとピアノに近づいてきたレオンハルトがジュラの眼前に楽譜を突き付けた。
「僕が書いたエチュードです」
譜面台に置かれた楽譜を見てジュラが僅かに息を呑む。
レオンハルトは冷たい眼差しでライバルを見下ろした。
「何でもいいのでしょう?お願いできますか」
――ザワリ。
サロンの客がざわめく。
あからさまに叩きつけられた挑戦状。
ジュラは少し考えてから自嘲気味に口角をつり上げた。
「アハハ、ヤバイなぁー。君の書くエチュードは地味にムズイから初見じゃキツイかも」
おどけた調子で笑うジュラに対し、レオンハルトは更に冷ややかな視線を送る。
「なら弾かなくても結構で――」
「いや――。弾くよ」
ジュラの口調が真剣なものに変わった。
数秒間、ザッと楽譜を見てから徐に指を鍵盤へ乗せる。



