『お前……ムカつくんだけど。』
は、い、?
いきなりの黒王子の告白。
それは、少女漫画のような甘いものなんかじゃなく、ブラックコーヒー以上に苦々しいものだった。
一瞬何を言われたのか分からなかった私だけど、徐々に黒王子が私に向かって発した言葉達の意味を理解していく。
ムカつく…?私が…?
トイレを出た時と同じように、ピシャリと固まってしまった私に、ずいっと黒王子の綺麗な顔が近づいてくる。
その美しさに、その至近距離に、不覚にも私の鼓動は通常より数倍も大きく音をたてた。
『敬語なんてもん、使うんじゃねーよ。』
「は……?」
敬語?
はて、何のことだろう、と一瞬考える。
――そういえば、私ってば……無意識にこの人の前では敬語を使ってた…かも。
『二度と俺にそのよそよそしい態度見せんな。イライラする。』
え、あ……それで?
ようやく、黒王子の私へのムカつきの原因が分かって、止まりかけた心臓が正常に拍動を始めたのを感じた。
そんな私から顔を遠ざけた黒王子は、口を曲げてまだ少し不機嫌そうな顔をしている。
そんなことでムカつくなんて…
黒王子のムカつきのハードルが想像以上に低いことを学んだ。