数秒の間、驚愕のあまりに私はポカンと黒王子を見上げたまま固まってしまう。

え……何でここにいんの?


「男子トイレは、あっちですけど…?」

『あ?』


ひぃっ

黒王子もお手洗いかと思って、男子トイレの場所を教えてあげたら、アーモンド形の目を細くした黒王子に睨まれてしまった。

何で怒るの…!


「お、お手洗いじゃないんですか…?」

『……はぁ。少しでもお前に優しくしようとした俺が間違いだったわ。』

「へっ?」


や、優しくしようとした…?

どの辺が、でしょうか?

私に冷酷な視線を送ることをやめ、そっぽを向いてしまった黒王子からは、私に対する優しさは微塵も感じられない。

もしかして……私の優しさのハードル基準が高すぎるのか?


『――おい。』


ハテナマークを頭上に浮かべつつも、ポケーっとしている私にかけられた、黒王子の低い声。

その声につられて顔を上げる私に、長い影がかかる。