『何が不満!?石川さんが入部してくれるなら、すぐにでも主将としてッ――』

「そうじゃないんです。」

『えっ……?』


試合で主将を張れる、張れないなんてことは、私にとってはどうでもいい。

私の腕を掴む先輩の手をゆっくりと剥がしながら、諭すように口を開いた。


「部に入ったら当然朝も放課後も休日も練習がありますよね。」

『え、ぇえ。』

「それが、嫌なんです。今の生活のリズムを壊されるのは嫌なんです。稽古なら、家でもできるんで。…それに、いくら私が剣道2段でも、部長さんとは経験値が違います。部長さんの代わりなんて私には務まりませんよ。」

『ッ――!』


大きな瞳をめいいっぱい開いて固まっている先輩に愛想笑いを向けた。

それ以上何も言わなくなった先輩に向けて、今度こそ"失礼します"と言ってその場から立ち去る。


『……そんな理由じゃ、納得できないわ…。』


教室に戻って、どこに行ってたの?と聞いてきた明日香に廊下でのことを話していた私は知らなかった。

取り残された船橋先輩が、私の剣道部入部に向けてさらに闘志を燃やしていたことを――…。