『黒王子?黒王子でしょ!?』
「ッ…!」
昨日ぶつかった上から目線男が黒王子だとは一切知らない明日香は、私に詰め寄りながら期待する眼差しで見つめてくる。
「誰が黒王子なんかタイプになるのよっ…!」
『え、じゃあ白王子?』
~~~っ!
黒王子か白王子かの2択しかない明日香に対して、私は眉間に寄せた皺をより深くさせた。
他にもいっぱいいるでしょう、男子なら…!
『ウソ~!?遥なら絶対、黒王子を選ぶと思ったのにーっ!』
「ちょっと明日香、冗談やめてよっ!何で私があんな上から目線男を好きになるのよ!」
たとえこの世に男性が白王子と黒王子の2人しかいないとしても、絶対に私は黒王子なんか選ばない。
あんなヤツを選ぶくらいなら、まだ人柄良さそうな白王子の方がマシってもんだ。
この時、理不尽な明日香の口ぶりに怒りのボルテージを上げていた私は、全く気付かなかった。
廊下の騒ぎ声が一層高まっていることも、教室内が入学以来初めてに等しいほどザワつき始めていたことも。
『――誰が"上から目線男"だって?』
「ッ!!?」
突如背後から掛けられた、聞き覚えのある怒りを含んだような低い声を耳にするまでは。

