黒王子は不器用な騎士様!?




昨日の記憶といえば、当然廊下の曲がり角で上から目線男とぶつかった事件、または修哉さんとの稽古という2大イベントがあったおかげで、そんな些細な話はすっかり私の小さな頭からは抜け出ていたのだった。

もうー!何で忘れてんのよー!?と隣でガミガミうるさい明日香に、とりあえずゴメンと謝っておく。

朝から情緒不安定だなーと思いながらも、それで?と私は明日香の話の続きを促した。


『そう、それでね!遥のために、王子2人の情報収集、してきてあげたわよ!』


先程とは打って変わって、語尾に音符でも付きそうなくらいに軽快に言葉を飛ばした明日香。

とりあえず、斜めだったご機嫌はなおったらしい。

……時々明日香って、いらない所で頑張るとこあるよね。

実際興味のカケラも持っていない学園の黒王子と白王子の身辺情報を掴んできた明日香に対して、心底どうでもいいという気持ちが増していく。

でも、ここでそんな話は興味ないなんてことを言ってしまうと、さらに明日香様のご機嫌が損っていくのは分かり切っていることであるため、そうなんだーと、興味があるようなないような絶妙なバランスの返事を返した。


『これ見て!』


席に座った私に向かって向けられたのは、明日香が中学卒業と同時に買ってもらったというスマートフォンの液晶画面。

そこに映し出されている何かを私に見せたいのだろうが、丁度朝日がその画面に差し込んでいるために、私がいる側からじゃ、何が映っているのか全く分からなかった。

……ってか、ウチの学校は携帯持ち込み禁止なんですけど?明日香さん。

ここにも校則違反者がいたわ、とスマートフォンの画面よりもそのことの方にツッコミたくなるのは私だけだろうか。