『――斗真。』
「あ?」
学校の校門をくぐって、朝からキャアキャアうるせー女どもを掻き分けてやってきた靴箱で、上靴に履き替えている俺に、もう上靴に履き替えた颯太が口を開いた。
『…斗真も、誰か女の子連れてきなよ。』
「は……?」
履き替え終わった外靴を靴箱の中に入れながら颯太の方に顔を向ければ、颯太は俺から目を逸らして少しだけ頬を赤らめさせてモジモジとしている。
『その、…栞奈と、2人きりにもなりたいんだ。』
ああ、そういうことか。
どうやら、颯太も栞奈に本気でアタックしようと決めたらしい。
……そんなことで赤面して、お前は恋する乙女かよ。
こんなことを言えば颯太がイジけるのが分かっていた俺は、ああ、ととりあえず頷いた。
「…頑張れよ。」
『ん。ありがと。』
親友のお前に免じて、それくらいのことはやってやる。
未だうるさい女子に囲まれながら、颯太と一緒にクラスへ向かう。
女子かー…うるせぇヤツらばっかだしな。
できれば、俺の言動にキャアキャア言わないヤツがいい。
俺の外見に興味を示さず、俺に下心を抱かず、かつからかい甲斐のある女――。
「……なぁ、颯太。」
『んー?』
その時、一人の女の顔が脳裏に浮かんだ。
…昨日、廊下の曲がり角でぶつかった体操服の女。
俺のスマホを壊したくせに、俺に突っかかってきた、あの女。
「昨日俺にぶつかってきたあの女、知らねぇ?」
こんな時、親友というのは役に立つ。
生徒会に入っている颯太は、生徒の顔と名前は頭にインプットしているらしい。
『ああ。確かあの子は――…』
俺の予想通り、あの女のことを知っていた颯太から、女の名前とクラス名を聞いた俺は、颯太に先に教室に行くように言って、女のいるクラスへ向かった。

