『…それはそうと、師範は?』

「あー、稽古が終わった後、疲れたって言って寝ちゃったよ。…おじいちゃんに褒められて、結構飛ばしちゃったから…えへへ。」


おじいちゃんも御年68で、現役師範といえどももう老人だ。

朝から若者の私の稽古に付いていくのもキツイはずだ。

稽古が終わった瞬間、ワシはもう寝る。疲れた。と言い残し、おじいちゃんは道場を去って行ったのだ。


『…遥ちゃん、もう師範も若くないんだから、ほどほどにね?』

「はぁーい、気を付けまーす。」


取り繕うように笑顔を浮かべると、やんわりとした忠告が修哉さんから却ってきた。

修哉さんって普段温厚だし、穏やかな人だから…こういうこと言われると、大分心にグサッと来たりするんだよね…。

そんなことを思いつつ、ほんの数十分前に作ったばかりの朝食を平らげたのだった。


「…あ、修哉さん。これ。」

『ああ、いつもありがとうね。』


私より早くご飯を食べ終えて台所の流しに食べ終わった食器を置いた修哉さんに、朝ご飯と同時に作っていたお弁当を渡した。

こういった細かなところも感謝の気持ちを忘れない修哉さんって、やっぱり良い人だと思う。修哉さんが本当のお兄ちゃんだったらどんなに嬉しかったか…。なんて思ったけど、そんな気持ちはすぐにどこかへ吹き飛んだ。


『食器は出勤前に俺が洗うから、遥ちゃんは何もしなくていいよ。じゃあ準備しに行くね。…気を付けて、いってらっしゃい。』

「はぁーい。修哉さんもね!」


爽やかな笑顔を向けてくれた修哉さんに笑顔を返すと、修哉さんはダイニングを後にした。

一人残された私は空になった食器を流し台に置き、自分のお弁当を手にすると学校に行く準備を済ませるのだった。