この手作りの模擬人形をいつ作ろうかと悩んでいる修哉さんをぼんやりと見つめた。

私に稽古をつけるために剣道着に着替えている修哉さんは、今朝の寝間着姿とは打って変わって凛々しく、男らしい。

元々、世間ではイケメンと呼ばれる端正な顔つきをしている修哉さんは、何を着ても格好良く見えるんだけど、道着を着ている瞬間は、特にその格好良さが浮き立っているのだ。

私は出勤前のスーツ姿の修哉さんも格好良くて好きなんだけどね。でも修哉さん自身は、ゆったりとした道着の方が着なれているし息苦しくなくていいんだって。どうもスーツは好きじゃないみたい。


『……あ、ゴメンゴメン。そろそろ稽古やんなきゃね。』

「うん。お願いします。」


一瞬、模擬人形から目を逸らした修哉さんと目が合う。

その時、修哉さんは私との稽古を思い出したようで、目尻を下げて微笑むと道場の中に入っていく。

やっぱり、修哉さんは優しくて大人で、良いお兄ちゃんだなー。……昼間ぶつかった男とは大違い。

修哉さんの後を歩きながら、あの上から目線男を思い出してしまった。

……数時間経った今でも、あの男の私を見下したようなあの厭味ったらしい顔を思い出しただけで腹が立つ。


『…遥ちゃん?』

「へっ?あ、ごめんなさい。」


無意識にしかめっ面になっていたようで、すでに竹刀を手にして目の前に立っている修哉さんに不思議そうに首を傾げられた。

……いかんいかん。今は稽古に集中しなきゃ。


『では、これより稽古を始めます。』

「…はい。」

『面打ち、はじめ!』


修哉さんが横に振った竹刀めがけて、私は両手に納めていた竹刀を振りかざす。

半ば無理矢理にあの男の存在を頭から追い出した私は、久しぶりの修哉さんとの稽古に精を出した。