『笑ってんじゃねーよ!』
「ぶふっ…ごめんごめん。」
ブスッとして不機嫌な俊に謝りながらも、笑いを抑えることはできそうにない。
目の前で縁側に腰を下ろして不貞腐れている俊は、昔の幼い私にそっくり。
稽古になると以上に厳しくなるおじいちゃんの稽古が好きになれなくて、おじいちゃんよりも数段優しい修哉さんにばかり稽古をつけてもらおうとした昔の私に。
……まぁ、こんなに口悪くはなかったけど。
「でも、師範も本気で俊とぶつかってんだからさ、負けたからってそんなクヨクヨしないの。これからもっと、強くなればいいんだから。ね?」
まだ私が俊と同じ小学生のころ、どうしてもおじいちゃんの稽古が嫌で、修哉さんに稽古をつけてもらえるように駄々をこねた時、私を諭すように言ってくれた修哉さんの言葉を、俊に言ってあげる。
"これから遥ちゃんがもっと強くなればいいんだから。"
この言葉があったからこそ、私はおじいちゃんのキツい稽古についていけていた時期もある。
『…分かったよ。』
「はい、じゃあもうこの話は終わり!…もう帰る時間だよ。俊、モタモタしてると皆に置いてかれちゃうぞー。」
『うわっ、皆早!』
道場の出入り口には帰り支度を終えた子ども達がゾロゾロと道場を後にしている。
その光景を見た俊は、ヤベェと言ってバタバタと剣道場の奥に消えていった。
『遥!またな!』
「気をつけて帰るんだよー!」
荒々しく私の名前を呼んで別れを告げた俊は、道場の玄関先で待ってくれていたらしい俊の友達と一緒に帰って行った。

