「は……ッ」
道場横の庭で、おじいちゃんに稽古をつけられている子ども達の声を聞きながら、私も稽古を始めた。
昔、おじいちゃんが私の素振りの練習のためにと作ってくれた人型の拙い模擬人形に竹刀を叩きこむ。
『『『ありがとうございましたー!!』』』
自主稽古を始めて数十分後、道場から稽古終了の合図を示す子ども達の掛け声が聞こえた。
今日の稽古は6時までだったはず。
『遥ー!』
もうすぐ修哉さんが帰ってくる時間かな、と竹刀を振り下ろした時、道場の方から私を呼ぶハキハキとした男の子の声がした。
「おっ、俊!」
『何で途中で先生が師範に変わったんだよー!』
道場の方に顔を向ければ、道場の縁側に立って私を見つめている剣道着を着た小学生の男の子がいた。
名前は青柳 俊くん。小学6年生。道場に通っている小学生の中で一番私に懐いてくれている男の子だ。
「あー、もしかして俊、また師範に怒られたんでしょ?」
『うるせーな。じいちゃんのクセに元気過ぎなんだよ。』
私からふいっと顔を逸らして口を尖らせる俊を見て、またおじいちゃんにこっぴどくやられたんだろうなーと想像した私はつい笑ってしまう。

