家の表札前まで来て、ようやくここで地獄の下校時間が終わろうとしていた時だった。
『はるかーー!』
家の中から聞こえた声変わり前の男の子の声。
この声はもしやと振り返った時だった。
ドンッッ
「わぁっ…?!」
後ろから腰のあたりを抱きつかれ、思わず意図しない声が出てしまった。
体をひねって後方を向けば、そこには袴姿で私に抱きつく俊がいた。
珍しいな…いつもツンケンした態度しか見せない俊が甘えてくるなんて。
「俊!何でっ…」
『今日は稽古の日だろー?何で遥がいなくて、あのじいちゃん先生が竹刀振ってんだよ〜?』
ああもう。
この前、おじいちゃんからも稽古つけてもらった方が身のためって言い聞かせたのに。さてはコイツ、また稽古抜け出したな?
俊が稽古を抜け出すことは稀なことじゃなかった。私が監督しているときは出席率は100%なのだけど、監督がおじいちゃんや修哉さんとなると、途端に稽古を嫌がって抜け出すのだ。きっと今も、稽古から抜け出した途中で玄関前にいた私を見つけて駆け寄って来たのだろう。
「あのね、師範が私じゃないからって毎回毎回−−」
『おお、帰って来たんか、遥。』
軽く俊にお説教しようとした時だった。俊の背後に音もなく現れたおじいちゃんに、私はともかく、未だ抱きついたままの俊も肩をビクつかせた。

