ガシッ
『待てよ。』
「ッ!?」
――はずだった。
下駄箱に向かおうとしている私の右手首を尋常じゃない力で掴まれて、私が下駄箱に行くことは許されなかった。
…どうやら私の謝り方が足りなかったらしい。くそ。今急いでるのに…
なんでこんな時に限って心が狭い人とぶつかるのよ、私…!と思いつつも、私の手首を掴んだままの彼に振り返った。
「本当に今急いでるんです…!ちゃんとお詫びはしますから、今は――」
『これを見ろ。』
「っ――!?」
ずいっと私の顔面に差し出されたのは、液晶画面の真ん中に綺麗にピキリとヒビが入ってしまっている黒のスマートフォンだった。
……そういえば、ぶつかったときガシャンッて何か物が落ちたような音が――したかも。
ヒビ割れてもう使い物にならなくなったスマートフォンを目の前に、私は顔を歪ませる。
この人が怒っているのは、私が前方不注意でぶつかったことではなく、このスマートフォンを壊されたことだったんだと、この時ようやく察した。

