『…あっさり遥が負けたってことは、それだけ豊川先生が本気だったってことでしょ?手加減されて負けるよりよっぽどいいじゃん。』
「……」
『ねぇー、いつまでそうやって落ち込んでんの?遥の周りだけ湿っぽくて、今にもキノコが生えてきそうなんですけど。』
慰めてくれるのは素直にうれしいよ。
嬉しいけどさ…最後の一言、余計だよね?明日香さん。
「…相変わらず酷いよ、明日香…」
『これ以上その覇気のない顔曝したらもっと酷いこと言うけど、それでもいいの?』
前方からかかった本気トーンの言葉を耳にした瞬間、私は机から顔を上げて思いっきり愛想笑いを浮かべた。
『…まぁいっか。今はその無理矢理な笑顔で。』
「ちょっとー、ちゃんと笑ったのに、何その言い方~」
『うっさい。いいから元気出しな。入部したからといって毎日、学校の道場で稽古しろとは言われなかったんでしょ?』
コクン、と明日香の問いかけに頷く私。
昨日、入部はしたけど豊川先生と主将、そして船橋先輩の有難い厚意によって、私の家の事情を考慮してもらって、剣道部員として稽古に参加するのは都大会直前の2週間、そして朝練は参加しなくてよいことが決まった。