『おい、船橋…それはいくらなんでも、』
豊川先生なりに、私に気を遣ってくれたのか、すぐに船橋先輩を止めにかかってくれる。
確かに私も剣道有段者だけど、2段の私と5段の先生とではレベルが桁違いに変わってくる。
それを、いつも修哉さんの相手をしてもらっている私にはすぐに察しがついたものの。
『じゃあ何ですか?このまま主将がいないメンバーで、都大会に行くつもりですか?』
『……』
『先生、私だって無茶なことしてるって分かってます。けど、…これは私達3年にとっては最後の試合なんです。どんな汚い手を使っても勝ちに行きたい。それにはどうしても石川さんが必要なんです!…お願いします!』
十数人が周りにいる前で、船橋先輩が豊川先生の前で頭を下げた。
その時、その場の空気が一気に緊張感に包まれる。
この時ようやく、私は船橋先輩の本意気を見た気がした。
『はぁ…本当、いつもお前の剣道愛には頭が上がんねーよ。』
数秒の沈黙の後、ついに豊川先生が白旗を上げたことにより、先生の試合参加が決定した。
『…まぁ、こういうことだ、石川。船橋の手前、手加減する気はないから。』
「は、はい……。」
第一試合に突入する空気の中、先生から掛けられたその言葉に、私の緊張は最大限に膨らんでいくのだった。

