『はぁ!?…だったら言わせてもらうけど、こっちはね、先週の金曜から石川さんに頼んでるの!行ってみれば、先約はこっちにあるわ!』
『フンッ…じゃあ言うが、一回断られたんだろ?それ。だから、今日またコイツのところに頼みに来た。…だったら、決定事項のコッチが確実に先約だ。』
『何をッ…そ、それは屁理屈よ…!』
『それを言うなら、そっちだってそうだろ。』
殺意剥き出しで睨み上げている船橋先輩に対して、黒王子はいつもの澄まし顔で交わしている。
うわー…あんな形相で睨まれたら怯んじゃうのが普通なんじゃないの?
どんだけ黒王子のメンタルは強靭なんだ…と、感心する反面、いい加減掴んでいる私の左腕を離してほしいとも思う。
なんか…こう、胸がザワザワするというか、なんていうか、とにかく身体が変に沸騰しそうなので、黒王子には今すぐに手を離していただきたいのだけど――、
『分かったなら、さっさと帰れよ。』
そう言ってこの場から立ち去ろうとする黒王子に、更に強く引っ張られてしまうのだった。
『っ…ちょっと待ちなさいよ…!』
「へっ…わぁっ!?」
黒王子に引っ張られて前傾姿勢になっていた私の右腕を、突然掴んできた船橋先輩によって、私は重心がよろけてしまい、素っ頓狂な声を出してしまう。
左腕を黒王子の手、右腕を船橋先輩の手によって掴まれてしまった私は、どっちつかずになってしまった私自身をどうすればいいのかさえ分からなくなってしまった。
『こうなったら――…勝負よ!』
そう言って鼻息を一層荒くさせた船橋先輩を見て、私はなんだか嫌な予感が脳内を過ったのだった。

