『――遅い。』
廊下に出て、黒王子の第一声はこれだった。
昨日と同じく、冷たい視線が頭上から降り注いでいる。
……そんなに嫌なら、来なきゃいいのに。
会って早々、不満が生まれるが、そこを言い出したらキリがないことはもう学習済み。
黒王子と健全に話をするには、黒王子の態度や物言いには目をつむることが大切である。
「……特別クラスの秀才さんが、普通クラスの凡人に何か用?」
――ああ、言っちゃった。
自分でも、思った以上に冷静になりきれなかったようで、嫌味でしかない言葉しか出ない。
その刺々しい言葉たちに、黒王子もピクリと肩眉のみが反応した。
『……昨日のこと、』
ポツリ、と黒王子がそう呟く。
――やっぱり、昨日のこと、怒ってるんだ。
黒王子の言葉に過剰反応した私が、勝手にキレて帰ったから。
どうせまた、嫌味を言われる。そう思った私は、黒王子が口を開く前に、"ごめん"と呟いた。
『……』
「昨日は、……いくらなんでも、言いすぎたから…。ごめんなさい。」
騒がしい廊下の中で、私と黒王子にしばしの沈黙が続いた。

