「なっ、何でもないよ…!」

『何でもないような顔じゃないよ?――友達と、ケンカでもした?』

「っ……」


ケンカ……

夕方の、私と黒王子のアレは、果たしてケンカと呼べるのか。

――いや、傍から見れば、あれは完全に私だけが熱くなって暴言を吐きまくっていたような気がする。


「……はぁー…」

『えっ…遥ちゃん?』


また溜め息を零す私を前に、修哉さんは困惑顔を見せる。

そんな修哉さんでさえ、こんな近くにいるのに、今の私には全く視界には入ってなどいなかった。


……やっぱり、あの言い方は良くなかったよね…。

黒王子は、白王子とは違うんだし……でもでも、元はといえば、アイツが私をバカにしたような口ぶりが――…

もう、こんな風に考えだしたら、止まらない。

終わりの見えない自己嫌悪。

黒王子だけに非があるわけではないと、ちゃんと分かっているだけに、彼ばかりを責められなかった。


『――ちゃん?遥ちゃん?おーいっ?』

「……はぁ。」


これ以降、私が修哉さんの問いかけに応えることはなかったのであった。