弾・丸・翔・子

 暖かな日差しが溢れる休日。達也は峠の道をシルバーのヘルメットを被ってツーリングしていた。翔子のバイクは海に沈めてしまったので、バイクをレンタルしたのだ。借りたのはヤマハV-MAX。エンジンは水冷・DOHCV型4気筒。排気量は1679cc。直進では怒涛の加速感を得られるバイカーには涎が止まらない逸品だ。しかしここは峠道しかもバイクは借り物。達也は軽く流しながらコーナーを楽しんでいた。
 達也のバイクを赤いヘルメットが追い越していった。達也の顔に自然と笑みが浮かぶ。その後ろ姿を見ながら、やっぱり翔子のバイクライディングは美しい。前にいるより後ろについた方が楽しいのだと達也はあらためて実感していた。
 事件から3カ月。翔子は達也の迅速な救命処置で、命を取り留めるとともに後遺症もなく回復した。達也の病院に入院中の翔子は、達也の付きっきりの看護を受け、リハビリの期間も、達也はひと時も翔子から離れようとしなかった。
 実は、翔子にまとわりつく達也もソマンを浴びたのだが、爆心から遠かったので極微量の曝露で済んだ。曝露したことも忘れるほど、達也は翔子の回復に尽くしたのだ。いつしか病院内でも、ふたりは公認の仲になっていた。
 退院後、翔子の回復祝いにツーリングに出た。病気明けとはいえ、翔子のライディングテクニックはまったく衰えていなかった。翔子のバイクのテールにつきながら、達也は翔子と同化して、楽しく心のおしゃべりを続けていた。
 峠の頂上へ着き、ふたりは休憩することにした。展望台のベンチに座ると、翔子は以前と同じようにおにぎりを出してくれた。達也は嬉しそうにおにぎりを頬張る。
「ねえ、メットについているララバイマーク(交差する雷と梅)のシールどうしたの。」
 翔子がベンチの横に置かれたシルバーのメットをあごで指しながら聞いた。
「やっと気付いてくれましたね。副長がくれたんです。」
「どうして?」
「埠頭まで4分を切って走ったでしょう。もうララバイコースにチャレンジする必要はないそうです。暴走集団ララバイの構成員に正式認定です。キャプテンジャンパーは、コッペイくんにあげちゃったんで、シールくれました。」
 翔子は笑い出した。実際、自らの命を賭して翔子の命を守った達也のガッツを、哲平も認めざるを得なかったのだ。
「これで翔子さんと堂々とお付き合いができます。」