弾・丸・翔・子

 後を追う達也も、翔子の数秒遅れで自分のバイクに飛び乗った。白衣のポケットを叩き中にあるPAMを確認しながらつぶやく。
『絶対に死なせるものか。ブルースと同じ目には絶対に遭わせない。』
 エンジンをスタートさせて、奥歯が砕けるほどの力でアクセルを開けると、翔子の後を追った。

 達也の哲平への報告が功を奏した。哲平から管内全交機に連絡が飛び、病院から埠頭へ向かう主な交差点全カ所にパトカーが配置されて、すべての車両をストップさせた。また警察無線を傍受したバイク便のコントロールセンターは、付近に待機するバイク便ライダー全員にメールを飛ばし、病院から埠頭に向う細かい交差点に待機するよう指令。そこで車両や自転車、歩行者に注意を促したのだ。
 従って翔子が疾走する白バイの先には、なにものにも邪魔されない綺麗な道が拓け、弾丸翔子の伝説の走りが繰り広げられた。ゾーンに入った翔子は、バイクとタイヤと自分のテクニックの限界ぎりぎりのところまでアクセルを開け続けた。リアタイヤはズルズルと滑り始め、バイク自身も今まで未知の高回転を体験させられエンジンが焼け始めた。交差点に配置された全警官、路地に待機するすべてのバイク便のライダーの目の前を、甲高いエキゾーストノイズを轟かせながら飛び去っていく。そのあまりにもの速さに、見送る者たちの目からは、翔子のヘルメットの赤が溶けて後方に延びたように見えた。
 驚いたことに数秒遅れて出たはずの達也が、翔子のバイクのテールをとらえた。つまりここまでは、翔子の走りを越えて走ってきたことになる。ここまで追いついたものの、彼の限界を遥かに越えた走りは、彼の神経をすり減らし、心の疲労と恐怖で気を失う寸前だ。危険な状態だった。しかし彼はわかっていたのだ。ここまでくれば翔子が引っ張っていってくれる。あの峠の道もそうだった。翔子と同化さえすれば、翔子の向く先に、翔子の倒す角度に、翔子の走るラインに、自然とバイクが動いてくれる。

 埠頭へ向かいながら翔子は、自分の鼓動にシンクロするもうひとつの鼓動を感じた。
『だれ?』
『僕ですよ、翔子さん。』
『達也?』
『はい。』
『またここへ来たの?』
『ええ。』
『なんで?』
『だって翔子さんを放ってはいけませんから。』
『なんでそんなに私のことを心配するの。』
『なぜって…。』