弾・丸・翔・子

「そんなことしているうちに漏れだしたらどうするの?」
「前の例では、荷物を受けって液が漏れだすまで1時間半かかった。その例で類推すると、もし犯人が本当に病院にソマンを隠したとしたら、準備や自分が持って移動する時間を前回同様の時間として差し引くと、犯人が病院から出た時間から1時間半、つまりあと10分程度はある計算になる。」
「そんなこと単なる予測でしょう。達也も避難しなくちゃ…。」
 その時、翔子の携帯が鳴った。
『おい翔子、病院へ着いたか?』
 哲平の声だった。
『病院に連絡しても、誰もでやしねぇ。』
「哲平?ええ、着いてるわよ。いまここに達也も居るわ。」
『そうか、犯人のやろう、一回溺れそうになっただけでゲロしやがったぜ。情けねぇ。』
「溺れる?」
『こいつやっぱり病院にソマンを仕込んだらしい。しかも、あと10分後くらいにガスが発生するようだ。お前ら早く逃げろ。』
 翔子はソマンがあると聞いても驚かなかった。達也は自分の計算が正しかったことを知った。
「で、どこに隠したの?」
『翔子、そんなこと聞いてどうするつもりだ?』
「いいから教えて。」
『うむ…、どうも入院棟の談話室らしいんだが。』
 そばで聞いていた達也が口を挟む。
「入院棟の談話室って言っても、5階から8階の4カ所ありますよ。もし、7階か8階だったらその階に避難している、動けない患者さんと病院のスタッフの命が危ない。」
「達也が見つけられれば、ガスが広がるのを防げるって…。」
『そうか、それなら逃げるわけにもいかないな…こいつにもう一回溺れてもらうか。』
 翔子も達也も哲平と犯人の間で何が行われているのか理解できなかった。
 その時だ。翔子は自分のジャンパーの裾を引かれるのを感じた。見るといつの間に来たのだろう、5歳くらいの男の子が翔子と達也の後ろに立っていた。翔子が哲平の名を呼ぶ声を聞いて、母の手を振り切って駆け寄ってきたのだ。
「坊や、この病院は危ないから、お母さんと早く外に出なさい。」
 駆け寄るお母さんを指差しながら翔子がその子に諭すが、男の子は頑として聞かない。
『どうしたんだ?』
 哲平の問いに翔子が答える。
「今ここに男の子がいて、外へ行けと言っても聞かないの。でも変ね…お兄ちゃんのジャンパー着てるわ。」
『コッペイか?おい、その子を電話に出せ。』