そこに透明なビニールで仕切られた実験室が現れると、捜査官の身体が凍りついた。おぞましい現場に慣れ切った捜査官でさえ、死体も血痕もないその実験室の邪悪な妖気に、膝の震えを止めることができなかった。
一方、捜査本部で待つ狩山は、家宅捜索の結果報告を身動きせずに待っていた。動かない割には鼓動が異常に早い。極度の緊張状態であることが、自分でもわかった。だから、待ち望んでいる電話が鳴った時も、自分を落ち着かせる意味で電話を睨みつけながら5回鳴るまで待った。
「狩山だ。」
「室長、ビンゴです。」
捜査官の興奮した声が受話器から聞こえた。
「被疑者は?」
「不在でした。付近に見当たりません。」
「くそっ…。」
危険な状態は、依然続いている。
哲平は、ガスステーションで給油する男に、近づいていった。背後から歩み寄っているので、顔そのものは見ることができなかったが、体つき、髪型は確かにあの時レストランで会った男に酷似している。しかも、近づくに従って、あの時感じた粘着気質なオーラが徐々に肌に刺さってきた。哲平の身体にアドレナニンが充満する。若き頃、喧嘩に向う時の興奮状態に似ていた。
男は近づいて来る哲平に気付いたようだった。手にしたキャップを頭にかぶるとサングラスをして振り返った。哲平はもろに男の顔と正対した。しかし、鼻や口そして顔の輪郭はあの時の男に似ているが、一番特徴的だった黒目がちな瞳を確認することができない。
「何か御用ですか、おまわりさん。」
男は口元に薄笑いを浮かべながら哲平に話しかけてきた。その余裕ある言動に戸惑いながらも、哲平は腹を据えてその男に仕掛けた。
「GDを吸って死ななきゃならないのは、お前だろう。」
男が、哲平の言葉に反応した。一瞬身体を硬直させたかと思うと、一転、目にもとまらぬ速さで、右手を水平にはらう。その手にナイフがあった。敏捷な反射神経で身体を反転し、哲平はかろうじて致命傷から逃れたものの、逃げ遅れた左腕が血に染まる。
男が脱兎のごとく駆け出すと、哲平はそれ以上のダッシュで男を追う。左腕に鮮血が滴り落ちようが、哲平の鍛えられた肉体で男を取り押さえることは簡単だった。男の右腕を絞って、ナイフを叩き落とすと背負い投げをかける。哲平の身体ごと地面に叩きつけられて、男のアバラ骨にひびが入る音がした。
一方、捜査本部で待つ狩山は、家宅捜索の結果報告を身動きせずに待っていた。動かない割には鼓動が異常に早い。極度の緊張状態であることが、自分でもわかった。だから、待ち望んでいる電話が鳴った時も、自分を落ち着かせる意味で電話を睨みつけながら5回鳴るまで待った。
「狩山だ。」
「室長、ビンゴです。」
捜査官の興奮した声が受話器から聞こえた。
「被疑者は?」
「不在でした。付近に見当たりません。」
「くそっ…。」
危険な状態は、依然続いている。
哲平は、ガスステーションで給油する男に、近づいていった。背後から歩み寄っているので、顔そのものは見ることができなかったが、体つき、髪型は確かにあの時レストランで会った男に酷似している。しかも、近づくに従って、あの時感じた粘着気質なオーラが徐々に肌に刺さってきた。哲平の身体にアドレナニンが充満する。若き頃、喧嘩に向う時の興奮状態に似ていた。
男は近づいて来る哲平に気付いたようだった。手にしたキャップを頭にかぶるとサングラスをして振り返った。哲平はもろに男の顔と正対した。しかし、鼻や口そして顔の輪郭はあの時の男に似ているが、一番特徴的だった黒目がちな瞳を確認することができない。
「何か御用ですか、おまわりさん。」
男は口元に薄笑いを浮かべながら哲平に話しかけてきた。その余裕ある言動に戸惑いながらも、哲平は腹を据えてその男に仕掛けた。
「GDを吸って死ななきゃならないのは、お前だろう。」
男が、哲平の言葉に反応した。一瞬身体を硬直させたかと思うと、一転、目にもとまらぬ速さで、右手を水平にはらう。その手にナイフがあった。敏捷な反射神経で身体を反転し、哲平はかろうじて致命傷から逃れたものの、逃げ遅れた左腕が血に染まる。
男が脱兎のごとく駆け出すと、哲平はそれ以上のダッシュで男を追う。左腕に鮮血が滴り落ちようが、哲平の鍛えられた肉体で男を取り押さえることは簡単だった。男の右腕を絞って、ナイフを叩き落とすと背負い投げをかける。哲平の身体ごと地面に叩きつけられて、男のアバラ骨にひびが入る音がした。



