弾・丸・翔・子

 とにかくその男の顔を見た瞬間に震えがきた。何処が似ていると説明が出来ないが、顔全体の印象が彼女に震えを起こさせたのだ。早速コントロールセンターに連絡しようとするが、ここ最近人一倍の目撃情報を送り、しかもそれがすべて空振りのこともあって少し気後れしている。哲平に連絡した方がまだ気安い。そう考えた翔子は、黒光りするステーションワゴンに乗り込んだ男を追いながら、ヘルメットに仕込んだ携帯イヤホンとマイクで哲平に連絡を取った。

 狩山は、窓から外を眺めながら、どうしようもない焦燥感にあえいでいた。行き詰る捜査の中で、あの桐谷という警部補は面白い情報を持っては来てくれた。それ以来格段と情報は増えったが、なかなかヒットしない。一向に犯人に近づいている気がしないのは、自分のかじ取りが間違っているせいなのかと、部下たちに見えぬところで唇を噛んでいた。
「狩山さん、似顔絵の男がヒットしましたよ。」
 捜査官のひとりが叫びながら、本部に飛び込んできた。狩山が待ち望んでいた報告だ。
「似顔絵の男に間違いないとの証言が取れました。」
「どこだ?」
「薬品のディーラーです。似顔絵の男に、ヘキサメチレンテトラミン (hexamethylenetetramine,HMT/複素環化合物)を販売したそうです。」
「ヘキサミンのことか?」
「はい。」
「おい…それって…膀胱炎や尿路感染症の治療に利用される一方で、裏の顔は、RDX(Research Department Explosive)爆薬を製造する原料だろ。」
「ええ、プラスティック爆弾の主要成分です…。」
「するとなにか、もしそいつが犯人だとしたら、ソマンとプラスティック爆弾の両方を持ったってことか?」
 狩山の問いに、室内は凍えるような沈黙に覆われた。
「ぐずぐずしてんじゃねぇ。ヘキサミンは毒劇物取締法の品目だ。販売記録があるはずだろうが。」
 狩山の一喝に、飛び込んできた捜査官が同じスピードで飛び出していった。

 病院内の通路を、自分の診察室へ向かって歩く達也は、先程別れた翔子のことを想っていた。自分の自宅で時間があった以来、何百回もなぜ自分達の家族が狙われるのかを考えていたが、まったく思い当たらない。それは、父も兄も母も同様だった。