弾・丸・翔・子

 哲平の返事に関係なく、執拗に質問を続ける翔子の気迫に押され、哲平も答えざるを得ないと感じてきた。
「さっきまで捜査本部で、7000人の被疑者の顔写真見たけど、少なくともその中には居なかった。」
「そう…あのさ、哲平が見た顔なんだけど、モンタージュ写真とかないの?」
「なんで?」
「これ以上バイク便ライダーの犠牲者が出ないように、達也の力を借りてソマン危機管理マニュアルを作ったの。会社も賛成してくれて、同業組合を通じて、都内各社に配ってくれることになったんだけど…それと一緒に犯人の顔も配れないかなと思って…。」
「犯人じゃなくて、今は重要参考人だよ。でも…、捜査機密は無理だと思うよ。」
「哲平、都内にバイク便ライダーが何人いると思ってるの。24時間を通して、街中のいたるところで荷待ち待機をして通行人を見ているのよ。沢山の警察が必死に捜査しているだろうけど、必ず役に立つと思うの。」
「そうかなぁ…でも翔子。なんでそんなに犯人逮捕に熱心なんだ。」
「なぜって…。」
 翔子が答えに詰まってうつむいてしまった。
「そうか…ペケジェーを殺されたくないんだな。」
 翔子が顔を赤くして哲平を上目使いに見た。
「別にそれだけじゃ…。」
 翔子の返事も終わらぬうちに、哲平はその場で捜査本部に電話し狩山を呼びだした。翔子の提案を簡潔に狩山に話すと、短い返事を繰り返して電話を切った。
「捜査本部の責任者の了解が出た。とにかく一刻も早く犯人を挙げたいから、何でも試したいそうだ。ただし、見つけた場合は絶対に独断行動しないで、まず捜査本部へ連絡することが条件だ。」
「よかった…。」
「ほら、これが俺が見た顔の似顔絵だ。」
 哲平は交機の職務中でも、会う人すべてに聞こうと似顔絵を肌身離さず携帯していた。差し出された似顔絵を見て、翔子はちょっと眉間にしわを寄せた。
「翔子。お前、今どき似顔絵か、なんて思ってるだろう。」
 思いを言いあてられて驚く翔子。その顔を見ながら哲平は、自分も交機をやめて捜査官に成れるかもしれないと思った。