弾・丸・翔・子

 やはりターゲットだけを狙うなんて、甘い考えがいけないんだ。広範囲な殺傷の中にターゲットが含まれていればそれでいい。それには瞬間的に大量のソマンを合成気化させる仕組みが必要だ。黒い男の兵器を作る邪悪な研究は、まるで留まるところを知らなかった。

 次郎の病室の前に、大勢の人たちが集まっていた。翔子、哲平、そしてライダー仲間達。病室の中で、達也が主治医と何か話しているのが見えた。ベッドの傍らでお腹の大きな若い奥さんが、目に涙を溜めながら寄り添っている。
 達也が病室から出て来ると、真っ先に哲平が尋ねた。
「次郎の容体はどうなんだ?」
 達也は居あわせた全員の顔を見回してしっかりした声で言った。
「心配も安定したし、命に別条はありません。」
 病室の前の通路に安堵のため息が溢れた。
「ただ…。」
「ただ、何?」
 翔子が強い口調で達也に尋ねた。
「やはり筋肉系統へのダメージが大きいから、PSDT(Posttraumatic stress disorder)、つまり心的外傷後ストレス障害や運動神経系統の後遺症が心配されます。」
「もっと解るように言ってよ。」
 語気を強める翔子に達也は冷静に返答を返した。
「腕や足など、身体の一部が動かせなくなる可能性が高いってことです。回復後も長期間のリハビリが必要になるかもしれない…。」
 ライダー仲間が、壁を拳で叩く音が聞こえた。
「だいたいなんでペケジェーが狙われたんだ?」
 哲平の問いに答える達也の声は恐怖に震えていた。
「狙われたのは自分だけではありません。宛先は父になってましたから…。ソマンは、空気中に長く留まって人を殺し続けることができます。あの後、父も兄も母も帰宅してくる予定でした。もし自分が受け取っていたら、みんなはソマンが充満した家に帰ってくることになってたんです。」
「狙われたのは、お前の家族全員か…。」
「狙われる理由は、まったく思い当たりません。」
 改めて背筋が寒くなって震える達也の肩に、翔子が優しく手をまわした。
「しかもなんで、関係の無いバイク便ライダーがふたりも犠牲にならなきゃならないの?」
 翔子のやるせない言葉に、哲平は両手のこぶしを強く握りしめた。
「許せねぇ、絶対に許せねぇ。必ずとっ捕まえてやるからな…。」
 ともにいるライダー仲間もみな同じ気持ちだった。
「それで、犯人捜査は進んでるの?」