弾・丸・翔・子

 一本目は荷受け時間指定だった。時間通りに到着すると、およそ人が働いているとは思えない廃墟のような事務所の様子に、次郎は行き先を間違えたかと思った。しかし事務所のドアを見ると、配送依頼メールの特記にあるように、ドアのノブに手提げ袋がぶら下げてあった。手提げ袋の中には、確かに書類封筒と現金の入った封筒がある。
 後請求の契約会社の配送依頼とは違って、個人の配送依頼では、その場で現金を支払うケースが多い。現金を確認すると、規定料金より多めだ。しかも、封筒に釣銭はいらないとの指示が表記されている。
「ダブルラッキー。」
 次郎は、伝票の控えと領収書を手下げ袋に入れると、書類封筒を取り出して、次の荷受先へ急いだ。
 次の荷受先では、荷待ちになった。ライダーを呼んでおきながら、配送する荷物の準備が出来ていない状態だ。次郎は、一本目の荷物をボックスに入れている都合上、早く配送先に走りたく、いらいらしながら2本目の荷物が出来あがるのを待った。
 結局20分待たされて荷物を受け取ると、荷受先の担当から、先方に30分以内に届けて欲しいとの依頼。次郎は、2本目の配送を優先せざるをえなかった。
 得てして偶発的な事象が重なり、計画したことが思わぬ結果を招くことがある。本来なら1本目は、次郎が受け取ってから30分後に先方に届くはずだった。それが2本目の荷待ちと配送優先で、先方に届くのに1時間半に近い時間を要することになったのだ。本当にバイク便を使いなれている人間だったら、一本目の配送依頼は荷受け時間指定ではなく、着時間指定をしていただろうに。

 達也はシャワーから上がると、バスタオルを肩にかけ、オレンジジュースを片手に庭に出た。ガーデンチェアーに腰掛けると、ブルースがのっそりと出てきて、達也の足もとに寝そべった。ブルースの頭をなぜながら、達也はため息をつく。いよいよ明日がララバイコースのチャレンジの日なのだ。
 ツインドライブから帰ると、実際のララバイコースでの走行練習を翔子と繰り返し行った。何回かトライアルもしたが、4分を切ることができない。今日は最後のトライアルであったが、やはり4分を切ることができなかった。
『結果は気にしなくていいから。別にそれが人間の価値を決めるわけでもないし…。とにかくここまできたら、怪我だけはしないように…。お願いよ。』