警察署での事情聴取に時間がかかり過ぎたのだ。翔子は漆黒の雨空を見上げる達也を見た。暗くなって、しかもこんな激しい雨の中を、彼を連れて峠を越えて走ることは可能だろうか。さっきは火事場の馬鹿力で奇跡的なライディングテクニックを見せたものの、普段の彼のテクでは、非常に危険であることは翔子も容易に想像できた。
「この辺には宿もありませんしの。明日になれば雨も上がりよるから家に泊まらっしゃい。」
先程の青年の祖父が翔子達に申し出た。ご迷惑はかけられないと固辞していたものの、かと言って行くあてもない。祖父は顔見知りの警察官に勝手に了解を取ってバイクを署の駐輪所に置かせると、自らが運転する軽トラックにふたりを無理やり同乗させた。
「すみません。途中にコンビニがあったら寄ってもらえます。」
腹を決めた達也が、ノロノロ運転の祖父に頼みこむ。
「コンビニで何を買うのかの?」
「あの、泊まるつもりなかったんで替えの下着がないんです。」
「そんなもん、孫の服があるがの。」
「あの…私も無いので買わないと…。」
少し顔を赤くして恥ずかしそうに言う翔子。
「奥さんのは、うちのばあさんので充分じゃろ。もったいない。買う必要はない。」
「あの、奥さんじゃ…。」
「ほら、あの角を入ればもうすぐじゃ。」
翔子が慌てて訂正しようとするが祖父はまったく聞こえている様子が無い。おもわず失笑する達也。翔子は肘鉄を食らわすと、痛さにもがく彼をしばらく睨んでいた。翔子と達也が過ごす初めての夜が始まった。
軽トラックが着いた田舎屋は、まさに農業を営む家にふさわしく、大きな庭と納屋と鶏を飼っている籠まである。見ると、今日事故を起こしたバイクが、無残な形で庭の片隅に置いてあった。後から聞いた話だが、事故を起こした青年の両親は九州に仕事で夫婦赴任していて、祖父母が彼の面倒を見ているそうだ。祖父母の育て方は、孫にはどうしても甘くなる。粗暴な彼の性格がそれで増長されたとは言わないが、彼も年齢を重ねればやがて祖父母の愛に気付く時が来るに違いない。
家では孫の付き添いで病院から戻ってきたお祖母ちゃんが待っていた。想わぬ来客に驚きながらも、心からふたりを歓迎してくれた。とにかくお疲れでしょう、とお祖母ちゃんの言葉に促されてお風呂を借りる。達也が先に入っている時に翔子は家の父に電話を入れて、事情を説明した。
「この辺には宿もありませんしの。明日になれば雨も上がりよるから家に泊まらっしゃい。」
先程の青年の祖父が翔子達に申し出た。ご迷惑はかけられないと固辞していたものの、かと言って行くあてもない。祖父は顔見知りの警察官に勝手に了解を取ってバイクを署の駐輪所に置かせると、自らが運転する軽トラックにふたりを無理やり同乗させた。
「すみません。途中にコンビニがあったら寄ってもらえます。」
腹を決めた達也が、ノロノロ運転の祖父に頼みこむ。
「コンビニで何を買うのかの?」
「あの、泊まるつもりなかったんで替えの下着がないんです。」
「そんなもん、孫の服があるがの。」
「あの…私も無いので買わないと…。」
少し顔を赤くして恥ずかしそうに言う翔子。
「奥さんのは、うちのばあさんので充分じゃろ。もったいない。買う必要はない。」
「あの、奥さんじゃ…。」
「ほら、あの角を入ればもうすぐじゃ。」
翔子が慌てて訂正しようとするが祖父はまったく聞こえている様子が無い。おもわず失笑する達也。翔子は肘鉄を食らわすと、痛さにもがく彼をしばらく睨んでいた。翔子と達也が過ごす初めての夜が始まった。
軽トラックが着いた田舎屋は、まさに農業を営む家にふさわしく、大きな庭と納屋と鶏を飼っている籠まである。見ると、今日事故を起こしたバイクが、無残な形で庭の片隅に置いてあった。後から聞いた話だが、事故を起こした青年の両親は九州に仕事で夫婦赴任していて、祖父母が彼の面倒を見ているそうだ。祖父母の育て方は、孫にはどうしても甘くなる。粗暴な彼の性格がそれで増長されたとは言わないが、彼も年齢を重ねればやがて祖父母の愛に気付く時が来るに違いない。
家では孫の付き添いで病院から戻ってきたお祖母ちゃんが待っていた。想わぬ来客に驚きながらも、心からふたりを歓迎してくれた。とにかくお疲れでしょう、とお祖母ちゃんの言葉に促されてお風呂を借りる。達也が先に入っている時に翔子は家の父に電話を入れて、事情を説明した。



