弾・丸・翔・子

 港南町交番に着くと、若い警官が敬礼で哲平を迎える。哲平も一応高卒ノンキャリアとは言え、順調な昇進で警部補だ。若い巡査部長程度の警官から敬礼を受けるのは当然のことだ。哲平が敬礼を返している最中に、男の子が腰に巻きついてきた。見るとやはりあの白バイに乗せたテッペイだった。
「やっぱお前か…。」
 哲平が抱き上げると、テッペイは抜けるような笑顔になった。そして白バイ隊員の装備が珍しいのか、答えもせずにあちこちをイジリまくる。
「こら、大事な装備なんだから勝手に触るな。」
 口ではそう言うものの、テッペイの悪戯に哲平は笑顔で応じていた。あまりにも楽しそうにじゃれあうふたりを見て、若き巡査部長は哲平に尋ねる。
「桐谷警部補のご子息でいらっしゃいますか。」
「ばか、俺が子持ちに見えるか?」
「ええ、充分に…。」
「嘘だろ…いいから上田総合病院の小児科にすぐ電話しろ。この子はそこへ入院していたはずだから、たぶんお母さんが青い顔で探し回っているぞ。」
 若き巡査部長は、交番の黒電話に飛びつく。
「テッペイ…うーん…なんか俺と一緒だから呼びづらいな…。お前は子どものテッペイだから。コッペイにしよう。」
 コッペイは、もろに嫌そうな顔をしたが、哲平はお構いなしだ。
「コッペイは病院を抜け出したのか?」
 コッペイは黙ったまま、ただうなずいた。
「病院からここまで、ひとりで来たのか?」
 コッペイは、病院に出入りするフローリストの軽トラックに忍び込み、病院を出た次の配達先に着いたところで降りたことを哲平に告げた。
「すげえな、5歳の子が…まるでアルカトラズ島からの大脱出だ。そんなに病院は嫌か?」
 哲平からの質問から逃げるように、コッペイは白バイ隊の装備をまた触りはじめた。
「わかったよ…無理に答えなくていい。さあこっちへ来い。また白バイに載せてやるぞ。」
 哲平はコッペイを抱き上げると、白バイの上にまたがらせた。今度はエンジンを掛けることはなかったが、ふたりで白バイを運転する真似をしながら、悪党追跡ごっごをして遊んだ。やはりコッペイは、悪い奴を追いかける時は、あの歌を口ずさんでいた。
 やがて、見たことのある高級セダンが交番の前に急ブレーキで停車すると、またビバリーヒルズからやって来たようないでたちのミカが車から飛び出してきた。
「テッペイ!」