弾・丸・翔・子

「実はね、叔母ちゃん…。」
 翔子が箸を置いて叔母に、本当のことを告げようとした時、ドアチャイムの音がした。叔母が慌ててドアフォンに走る。
「どなたですか?」
「上田達也です。翔子さんいらっしゃいますでしょうか?」
 叔母が翔子に振りかえって愛想笑いをした。
「ごめんね、私が呼んじゃった…。」

 ダイニングテーブルに、肉じゃがを挟んで座る翔子と達也。叔母はそそくさと自分の家に戻ってしまった。しばらく黙ったままのふたりだったが、沈黙に耐えかねた達也が口を開いた。
「おいしそうな、肉じゃがだなぁ。」
 翔子は黙ったまま、台所から小皿と箸を持ってくると、肉じゃがを盛って達也の前に置いた。そのまま、黙って肉じゃがをつつくふたり。倦怠期にはいった夫婦の食卓ってこんな感じなんだろうか。達也は何となく思った。いや待て、ふたりは夫婦でもなんでもないんだから、やることやらなきゃ。達也は思いなおして箸を置く。
「翔子さん、なんで電話に出てくれないんです。レッスンしてくれる約束でしょう。」
「もう嫌になっちゃった…。」
「なんてことを…自分を見捨てる気ですか。」
「コースチャレンジなんか辞めればいいじゃない。」
「そう言うわけにはいきません。」
「どうせ私たち偽の恋人でしょ。意味無いじゃん。」
「もうそんなこと関係ありません。前にも言いましたが、これは副長との約束であり、自分の意地ですから。」
『男はな、惚れた女の前では、たわいもないことに意地を張るもんだ。』
 翔子の頭を哲平の言葉がよぎった。
「チャレンジしてどうなるの?成功したら私と付き合う気?」
 翔子の問いに、達也は天井を仰いだ。翔子はそんな彼を見つめなぜか緊張していた。どんな返事を期待しているのか自分でも解らなかった。
「自分は…優秀な兄貴を持つだめな次男坊です。贔屓とは思いませんが、父は兄貴に優しく、自分には厳しかった。訳もわからず自分は兄貴の後を必死で追いました。今考えるとそれは、追いたかったのではなく、追わなければいけないと父から言われたからのような気がします。気付いたら医者になっていましたけど、今になって思うんです。自分は本当に医者になりたかったのかって…。」
 達也の口から出てきたのは翔子の問いに対する答えではない。翔子は拍子抜けしたものの、意外な話しの展開にじっと耳を傾けた。