弾・丸・翔・子

 見ると、翔子が赤いヘルメットを朝日に輝かせながら、こちらへ向かってくる。女性であるということがわかってみると、その相変わらずの雄姿に剛さというよりは、ある種の孤独感を感じる。彼女も普通の女の子として生まれ、育ち、沢山の女の子の友達を持っていたはずだ。それが友達の輪から外れて、今ではバイクを駆って日々を暮らすちょっと異質な女性となっている。兄の影響があったとしても、どういう心の軌跡をたどればそうなるのであろうか。考えてみれば、翔子の家族にはお会いしたとしても、翔子自身ことはまるで知らない自分に気付いた。単なる師匠と弟子の関係ではあるものの、達也は翔子のことをもっと知りたくもなっていた。
 到着した翔子は、メットを外さずに達也に言った。
「今日の練習は、タンデムよ。」
「タンデム?」
「メットを付けて、私のバイクに後ろに乗って。」
 達也は翔子に言われるがまま、後部シートにまたがった。
「私がライディングするから、意志を持たない荷物になって頂戴。たとえ、ブレーキングで前のめりになってもその荷重を自分で踏ん張らないで私に預けるのよ。そして私の体とひとつになって、ライディングでのからだの動きを感じて欲しいの。そのためには…。」
 翔子がいきなり達也の両手を掴み、自分の胴体に巻きつけた。
「私の体に、できるだけ密着して。」
 ライダージャケットとはいえ、後ろから抱きつけば翔子の身体の形や柔らかさが、もろに感じられる。女性を抱くと言う経験に乏しい達也は、戸惑ってつい腕を緩めてしまう。
「だめよ、そんなんじゃ。もっときつく腕を締めて、体を密着させて。」
 そこまで師匠がおっしゃるなら…。達也は腕を絞り、体を密着させた。朝から女性を抱きしめるなんて刺激的だ。体のどの部分も変化させるなと言っても、まだまだ若い達也には難しい注文だ。生地の厚いデニムパンツを履いてきて助かったと、安堵する達也のヘルメットに、いきなり翔子が自分のヘルメットをぶつけてきた。
「なんか変なこと考えてない。」
「な、な、な、何言ってんですか…。」
 達也が慌てて打ち消したものの、少しどもり気味になったことが、その言葉の信ぴょう性を台無しにしていた。
「そう…。」
 疑わしい翔子の声。
「…まあいいか。」
 翔子はエンジンをスタートしギアを繋いだ。空地内に大きな八の字を描きながら、バイクをロールさせる。