「でも…苦しそうなこの子を見ると、少しでも早く連れて行ってあげないと。」
「ここで切符切っても意味なさそうですね。お子さんを寄こしなさい。」
女性は突然の申し入れに躊躇するも、哲平に再度促されて、不安そうに子どもを渡す。哲平は、プロテクターベストを緩めると自分の腹の前に子どもを抱え入れ、ベストのベルトを子どもの背中にまわしてロックした。赤ちゃんをかかえる抱っこひもの要領だ。
「自分がお子さんを病院に連れて行きます。お母さんは病院に電話して受入体制を要請してください。それから、安全運転でゆっくり来るんですよ。」
哲平は子どもを抱えたまま自らの白バイに飛び乗り、サイレンを鳴らして、またミサイルのように飛び出していった。
明らかに職務規定違反である。理由はどうあれ、白バイに傷病の子どもを同乗させて、サイレンを鳴らして疾走するなんて前代未聞だ。始末書と1カ月乗務停止は免れない。しかし、哲平はアクセルを緩めなかった。理屈ではない。彼の直感が子どもを一刻も早く病院へ届けるべきだと告げていたのだ。
サイレンが前方の車たちを左右に履き出して、一本の道を作る。哲平の白バイはその真中を疾走した。交差点では、信号の状況、車の状況、それらを一瞬で見極めて、大きなバイクを左右に傾けてすり抜ける。それは判断ではなく、彼が若い頃無謀な走りで培った反射神経であった。
「迫るー、ショッカー、地獄の軍団。我らをねらう黒い影。世界の平和を守るため〜。」
哲平がライディングでゾーンに入ると、必ず無意識に口から出て来る歌だ。子どもは、息の苦しさにもだえながらも、哲平の胸から伝わるこのヒーローの主題歌を聞いていた。
「苦しいか、ボウズ。もうすぐ病院だ。我慢できるよな。幼稚園に帰ったらみんなに自慢しろよ。白バイに乗って走ったなんてボウズだけだからな。」
哲平は、彼の胸の中でこどもが小さくうなずくのを感じた。
サイレンと哲平のライディングテクニックで、驚くほどの短時間で白バイは上田総合病院の救急入口へ着いた。見ると、医師と看護師がストレッチャーを出して待機している。
「ご苦労様です。」
医師が子どもを受け取ろうとすると、子どもは苦しいにもかかわらず哲平のベストを掴んで離そうとしない。
「俺が役にたてるのはここ迄だ。あとは先生に任せないと…。」
「ここで切符切っても意味なさそうですね。お子さんを寄こしなさい。」
女性は突然の申し入れに躊躇するも、哲平に再度促されて、不安そうに子どもを渡す。哲平は、プロテクターベストを緩めると自分の腹の前に子どもを抱え入れ、ベストのベルトを子どもの背中にまわしてロックした。赤ちゃんをかかえる抱っこひもの要領だ。
「自分がお子さんを病院に連れて行きます。お母さんは病院に電話して受入体制を要請してください。それから、安全運転でゆっくり来るんですよ。」
哲平は子どもを抱えたまま自らの白バイに飛び乗り、サイレンを鳴らして、またミサイルのように飛び出していった。
明らかに職務規定違反である。理由はどうあれ、白バイに傷病の子どもを同乗させて、サイレンを鳴らして疾走するなんて前代未聞だ。始末書と1カ月乗務停止は免れない。しかし、哲平はアクセルを緩めなかった。理屈ではない。彼の直感が子どもを一刻も早く病院へ届けるべきだと告げていたのだ。
サイレンが前方の車たちを左右に履き出して、一本の道を作る。哲平の白バイはその真中を疾走した。交差点では、信号の状況、車の状況、それらを一瞬で見極めて、大きなバイクを左右に傾けてすり抜ける。それは判断ではなく、彼が若い頃無謀な走りで培った反射神経であった。
「迫るー、ショッカー、地獄の軍団。我らをねらう黒い影。世界の平和を守るため〜。」
哲平がライディングでゾーンに入ると、必ず無意識に口から出て来る歌だ。子どもは、息の苦しさにもだえながらも、哲平の胸から伝わるこのヒーローの主題歌を聞いていた。
「苦しいか、ボウズ。もうすぐ病院だ。我慢できるよな。幼稚園に帰ったらみんなに自慢しろよ。白バイに乗って走ったなんてボウズだけだからな。」
哲平は、彼の胸の中でこどもが小さくうなずくのを感じた。
サイレンと哲平のライディングテクニックで、驚くほどの短時間で白バイは上田総合病院の救急入口へ着いた。見ると、医師と看護師がストレッチャーを出して待機している。
「ご苦労様です。」
医師が子どもを受け取ろうとすると、子どもは苦しいにもかかわらず哲平のベストを掴んで離そうとしない。
「俺が役にたてるのはここ迄だ。あとは先生に任せないと…。」



