弾・丸・翔・子

 夜が明けきれぬ早朝、赤いメットの翔子は、愛車で達也との待ち合わせ場所に向っていた。そこは波止場に近い倉庫のトラック置き場。仕事が始まる前の朝は、粗くコンクリートが打たれた空地になっている。結局、翔子は達也へバイクを教えることを承諾し、その場所としてそこを選んだのだ。
 こんな展開になるとは予想もしていなかったが、もともと自分が播いた種だから仕方が無い。ただ、ひとつだけ気になっている事があった。自分がなぜ彼を巻き込んでしまったのかということだ。偶然だったのか、それとも彼でなければならなかったのか。このことが妙に気になる。
 見ると達也はすでに待ち合わせ場所に到着していた。シルバーのメットを小脇に抱え、皮のジャンパーにジーパン。誰に聞いたのか精一杯のライダースタイルに身を固めているのだが、見れば見るほど似合っていない。バイクの傍に立ちながらも、バイクとのフィット感やライダーとしてのオーラが感じられない時点で、もう彼にバイクに対する才能がないことを物語っている。前途多難だな。翔子は気が滅入った。やはり、ララバイコースへのチャレンジを止めた方が良いのかもしれない。
「翔子さん、おはようございます。」
 到着した翔子に、達也が元気に挨拶する。達也のバイクをあらためて見るとXJRではない。しかも新車のようだった。
「バイクどうしたの?」
「前のは変な癖があったんで、買い換えました。見てください。BMWF800ST(スポーツツーリング)です。」
 ぴかぴかの新車だ。シルバーのボディが朝日に反射して光っている。翔子はため息をつきながら首を振った。
「あんた、本当に坊ちゃんね…。そのバイクのカギ渡しなさい。」
「どうしてですか?」
「いいから、渡しなさい。」
 達也はしぶしぶと鍵を翔子に渡した。
「ララバイコースのチャレンジが終わるまで、私がそのバイク乗るから。あんたは、私のバイクに乗りなさい。」
「そ、そんな…。」
「あら、レッスンを始めるルールをもう忘れたの?」
 翔子はバイクを教えることを承諾する条件として、達也の絶対的服従を条件にしたのだ。
「わかりました。」
 達也は消え入りそうな声で翔子とバイクを交換した。
「それにルールをもうひとつ加えることにしたわ。」
「なんです?」
「あなたは私を師匠と呼ぶこと。」