弾・丸・翔・子

「邪魔したな、翔子。先生と叔母ちゃんによろしく言っておいてくれ。おい、いくぞ、次郎。」
 肩を怒らせて大股に歩き始めた哲平の後を、次郎は慌てて追った。
 ふたりの姿が境内から消えると、翔子は達也の両腕を取り自分に向き直らせる。
「あなたって、こんなに短気な人だったの?」
「いえ、短気って言われたことありません…。」
「じゃ、何でそんなに意地張るのよ!」
「自分も理由がわかりません。それに…。」
「それに、何よ。」
「こんなに言い争ったことも初めてです。しかもあんな怖そうな人を相手に…。」
 達也の顔がなぜか笑っていた。
「なんか気持ちがすっきりしました。」
「馬鹿なこと言わないでよ。」
 翔子が首を振りながら、ため息をついた。
「ララバイコースを知らないから、そんな悠長なこと言っていられるのね。」
「どんなコースなんですか?」
「あれを4分以内で走るなんて、半端じゃないわよ…とにかく、そんなことしなくていいから。」
「いえ、こうなったら後には引けません。」
「どうして?」
「いえ…まあ…理由はとにかく、男同士の約束ですから。」
 翔子は達也がこだわる理由を確かめたかったが、達也は曖昧な言葉でその問いをかわした。
「さっそく明日から特訓を始めます。」
「どうやって?」
 達也はじっと翔子を見つめた。達也の目は、病院で初めて会った時と同じ目をしていた。
「ちっ、ちょっと待ってよ、私は教えられないわよ。」
「どうして?」
「どうしてって…人に教えられるような技術なんてない。」
「嘘でしょう。もとはと言えば、翔子さんがお見合い話しをかわすために、自分を巻き込んでこうなったんですから、協力してくれてもいいじゃないですか。」
 翔子は口をつぐんで答えようとしない。今度は達也が翔子の両腕を取って迫った。
「お願いです。どうか助けてください。」
 達也は必死に頼みながら、背中を丸めて翔子の顔をのぞき込んだ。
「あら…戻ってくるの早かったかしら。」
「おい、おふたりさん。キスはいいけど、叔母ちゃんの言う通り、子どもは結婚式の後だぞ。」
 戻ってきた父親と叔母に声をかけられて、慌てふたりは身を離した。