弾・丸・翔・子

「バカバカしい、あんた達いつまで団の掟にこだわっているのよ。いい加減大人になったら。」
 達也は腕をくんで、哲平の前に立ちはばかった。
「自分にそれが出来ないと言うんですか。」
「あんな走りじゃ、まず無理だな。」
「やってみなきゃ分からないじゃないですか。」
「ちょっと達也さん。あなた、なに言いだすの…。」
 慌てて達也の腕を取って制止する翔子だが、彼は言うことを聞かなかった。
「自分が出来ないと決めつけないでください。」
「言ったな、ペケジェー。なら、もし4分で走り抜けられなかったら…。」
「潔く身を引いて翔子さんの前から消えますよ。でも、走り抜けられたら…。」
「翔子とペケジェーの交際を祝福するお祝いに、団長から引き継いだこのキャプテンジャンパーを進呈してやる。」
 哲平は、自分の着ているジャンパーの左腕を示した。そこには、はっきりとゴールド二本線のキャプテンマークがはいっていた。次郎が着ているジャンパーとは明らかに違う。
「ちょっとあんた達、勝手に私とそんな古着ジャンパーを賭けて勝負を始めないで。」
「そうですよ。副長、ビギナーにあのコースは無茶ですよ。現に何人も怪我人を出しているコースなんですから。」
 翔子が達也の腕を押さえ、次郎が哲平の腕を押さえる。しかし達也と次郎は押さえるふたりを引きずって、お互いの顔を近づけ睨みあった。もうすぐ額が触れ合いそうだ。
「おいペケジェー、次郎が言ったことは嘘じゃない。下手すれば命を落とすぞ。今のうちにおとなしく、翔子の前から消えた方が良いんじゃないか。」
「いや、翔子さんは絶対にあきらめません。」
『えっ?』
 そんな達也の返答を聞いて、不思議に翔子の顔が火照る。たとえ嘘でも、男にそんなことを言われたのは初めての経験だった。
「でも…その方がおっしゃるように自分はビギナーですから、少し準備の時間をください。」
「おいおい、急に弱気になったな…まあ、いい…どのくらい必要だ。」
「できれば…1年。」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。そんだけ時間があれば結婚式あげて、子どもが産まれちまうじゃねえか。」
「ならば…1カ月。」
「わかった。」
 ようやく、ぶつかりそうに近づけていた距離を離した。
「来月の今日、朝7時にララバイコースへ来い。場所は翔子が知っているはずだ。」
 哲平が腕組みを解き、ジャンパーの襟を正して翔子向き直った。