弾・丸・翔・子

「翔子ちゃんたら、いつの間に…。しかも、上田総合病院の御子息だなんて…。」
 ああ、トリニティの名は、翔子っていうのか…。とりあえず、達也は彼女の名前だけは知ることができた。
「ね、叔母ちゃん。あたしだって、やる時はやるでしょ。」
「やるって…何を?」
 達也の声が不安で震え始めた。
「上田さん、翔子の兄の法事にはぜひ来てくださいね。美味しいお稲荷さん作りますから。」
 よっぽど嬉しかったのだろう、そう言って達也の手を握る叔母の目は潤んでいた。
「法事?」
「さぁ、叔母ちゃん。達也さんもお仕事で忙しいでしょうから、お話はまた法事の時にでもね。」
「だから、法事って何?」
「そうね。翔子ちゃんの言う通りだわ。お仕事中すみませんでした。」
「それじゃ達也さん。あとで、電話するから。」
「電話って…どのでんわ?。」
「え、また携帯を新しく変えたの?どんな携帯?見せて!」
 意味もわからず達也が白衣のポケットから自分の携帯を出した。
「まあ、素敵!」
 翔子は達也の携帯を奪い取ると、すばやく自分に電話をかけワン切りする。
「ほら、携帯返すわ…それじゃ、お仕事頑張りましょうね。」
 投げ返された携帯を、慌てて両手で受け取る達也。彼は翔子に背中を押し出されて、結局話しの筋が1ミリもわからないまま、診療室へ戻ることとなった。途中廊下でふりかえると、翔子と叔母が笑顔で自分に手を振ってくれている。考えてみれば、誰かに笑顔で手を振って見送られるなんて、久しくなかったことだ。達也は小さくお辞儀をすると、首を傾げながら診察室へ向かった。

 翔子の兄の命日。達也は未だに理由が解らぬまま、フォーマルウエアにシルバーのカフスを付けて墓の前にいる。いくらブルースの命の恩人とは言え、理由も告げぬまま自分をここに立たせた翔子を理不尽に思いもしたが、ライダースーツを脱いでスカート姿で横に立つ彼女は、あまりにも可憐な女性っぽくて、鑑賞に値する。隣に居て悪い気はしなかった。
 それよりも達也を悩ませたのは、同席するふたりの若者である。墓参りだと言うのに、揃いの派手なジャンパーを羽織って初めて会った時からずっと達也を睨んでいる。ジャンパーの背についているマークは『交差する雷に梅』。どこかで見たことがあると、さっきから達也は必死に自分の記憶をたどっていた。