弾・丸・翔・子

「いくら叔母ちゃんでも、言いすぎじゃない?」
「翔子ちゃんが、見え透いた嘘つくからよ。」
「嘘じゃないもん。」
「それじゃ私の、この目の前に連れてきてよ。そうしたら痛い膝ついて土下座して謝ってあげるから。」
「そんなこと言って、いいの?」
「いいわよ。喜んで土下座するわ。」
「ほんとーに、いいの、叔母ちゃん。」
「無理しちゃって…。土下座で足りなかったら、今度の法事にあなたの好きないなり寿司作ってあげるわよ。しかも五目飯でね。」
「言ったな、忘れるなよ。いいか、知らないぞ…。」
「どうした、弾丸翔子。顔が蒼いわよ。」
 翔子は目をつぶると、意を決したようにロビー中に響く声で叫んだ。
「たつやーっ!」
 病院の全職員が達也を見た。実は何も知らない達也は、白衣のポケットに手を突っ込み、入院患者の往診を終えて、診療室に戻るために、ロビーを横切っていたのだ。
「へっ?」
 いきなり自分の名を呼ばれた達也は、驚いて声の主を見た。
「ここよー。」
「へっ?…トリニティ?」
 実は翔子はすでに達也の姿を見つけ出していて、このグッドタイミングに現れた彼を利用して叔母ちゃん相手に一か八かの勝負に出たのだった。一方、事態が飲み込めない達也は、首を傾げながらも翔子の手招きに応じて叔母の前に出た。女性に冷たいはずの達也先生が、見知らぬ若い女性に名前で呼びとめられるという異常事態に、病院の全女性職員が息を潜めてことの成り行きに注目している。
「叔母ちゃん、紹介するわ。私の彼氏の上田達也さん。」
 翔子が言った彼氏という言葉が病院に、翔子の予想以上の波紋を引き起こした。全職員のどよめきが、遠くへ伝わるに従い、さざ波から津波へと成長して病院内に広がると、若いナースなど涙ぐむものさえ現れた。腕を取られて紹介された達也は、驚いてその腕を引き抜こうとする。しかし、翔子がそうはさせじと抑え込む。
『何でもするって言ったでしょ…。』
『だからっていったいこれは…。』
『いいから、すぐ終わるから。』
 突然彼氏を紹介された叔母は、驚きのあまり、ふたりの囁きあいなど耳に入らない。
「上田さんって?この病院のご次男の?」
「ええ、まあ…。」
 そう返事をした達也は、翔子と叔母を交互に見ながら、話しの筋を探ろうとする。しかし、一向に何が起きているのか理解できない。