医師は、首筋の頸動脈に指をあて脈を取り、顔を横たわるライダーの口元に近づけて息の状態を調べた。ライダーはどうやら跳ね飛ばされたショックで心肺停止状態になっているようだ。医師はライダーの顎を優しく取るとゆっくりと引き上げ気道を確保する。そしてマウストゥマウスで2回ほど息をライダーの肺に吹き込み、胸手に手を添えて胸骨圧迫をすばやくおこない心肺蘇生をはかった。やがて翔子が呼んだ救急車が現場に到着すると、医師は救急隊員にAED(自動体外式除細動器)を持ってくるように指示。AED、人工呼吸、胸骨圧迫の組み合わせを2回繰り返したところでライダーが小さなうめき声を上げた。
ヘルメットを取るのを忘れて、翔子はこの一連の対処を驚愕の思いで見守った。自分が立ち入れない世界だ。人の命を簡単に救う。だから医師は昔から尊敬の対象なのだ。医師は、ライダーの容態を確認すると、携帯電話でどこからかに連絡し、てきぱきと救急隊員に指示を出した。
「この方を上田総合病院へ搬入してください。今、急患の受入体制を指示しましたから…。」
聞いたことのある病院名に、翔子が改めて医師の顔を見た。驚いたことにその医師は、自分をナンパしようとした金持ちのモテモテ坊ちゃんだったのだ。
救急車を見送ると、達也は道路で何かを探し始めた。どうやら救命に急ぐあまり、自分のヘルメットを投げ出した場所を忘れてしまったようだ。ようやく野次馬も去っていった路側帯の縁石の間から、自分のヘルメットを見つけ出すと、埃を払って小脇にかかえる。真新しいシルバーのヘルメットが日差しに反射して輝いていた。
『そう言えば、あの坊ちゃんはバイク教わりたいって言っていたわね…。』
翔子は、興味を持ってトボトボと自分のバイクに戻る達也を見守った。見ると、達也のバイクは堂々と路面に横たわっている。達也は何度か起こそうと試みたが、バイクはその身を起こしてくれない。やがて力も使い果たすと、その傍らに立って、どうしたものかと途方に暮れていた。
以前ナンパしようとした女だと悟られたくなかった翔子は、ヘルメットのまま達也の傍に近寄ると、彼の肩に手をかけた。
『任せてもらえますか。』
ヘルメットを取るのを忘れて、翔子はこの一連の対処を驚愕の思いで見守った。自分が立ち入れない世界だ。人の命を簡単に救う。だから医師は昔から尊敬の対象なのだ。医師は、ライダーの容態を確認すると、携帯電話でどこからかに連絡し、てきぱきと救急隊員に指示を出した。
「この方を上田総合病院へ搬入してください。今、急患の受入体制を指示しましたから…。」
聞いたことのある病院名に、翔子が改めて医師の顔を見た。驚いたことにその医師は、自分をナンパしようとした金持ちのモテモテ坊ちゃんだったのだ。
救急車を見送ると、達也は道路で何かを探し始めた。どうやら救命に急ぐあまり、自分のヘルメットを投げ出した場所を忘れてしまったようだ。ようやく野次馬も去っていった路側帯の縁石の間から、自分のヘルメットを見つけ出すと、埃を払って小脇にかかえる。真新しいシルバーのヘルメットが日差しに反射して輝いていた。
『そう言えば、あの坊ちゃんはバイク教わりたいって言っていたわね…。』
翔子は、興味を持ってトボトボと自分のバイクに戻る達也を見守った。見ると、達也のバイクは堂々と路面に横たわっている。達也は何度か起こそうと試みたが、バイクはその身を起こしてくれない。やがて力も使い果たすと、その傍らに立って、どうしたものかと途方に暮れていた。
以前ナンパしようとした女だと悟られたくなかった翔子は、ヘルメットのまま達也の傍に近寄ると、彼の肩に手をかけた。
『任せてもらえますか。』



