弾・丸・翔・子

 ピックアップを終えて、届け先へ向けて走行している最中に、ヨロヨロ、もたもた走っているバイクが目に入った。シルバーが眩しいネイキッドのリッターバイクという外観の勇ましさの割には、その走行があまりにも不安定だ。ライダーは酔っぱらっているのだろうか。仕事中はあの手のバイクに関わらない方が良いと判断した翔子は、充分距離を取ってゆっくりと追い越しを図る。すると、今度は後方から甲高いエグゾーストノイズを発して、カワサキZZ-R250が、翔子とリッターバイクの間をすり抜けてきた。ただでさえ乱暴なドライビングに加え、あろうことか追い抜きざま、リッターバイクに幅寄せをしてチョッカイを出した。驚いたリッターバイクは、転倒を免れたものの、ハンドルを揺らし無様な蛇行を余儀なくされた。
 翔子はこの手の冗談は大嫌いだ。仕事を忘れて、粗暴運転の説教をしようとアクセルを開けた瞬間、交差点を乱暴に右折しようとしたZZ-Rが、前から来た軽トラックの直進車と接触した。もちろんZZ-Rの車体と粗暴ライダーは弾き飛ばされ車道のフェンスに激突する。
 こんな事態になると話しは変わる。翔子は説教も忘れバイク仲間の救命のために、事故を起こしたライダーのところへ駆けつけた。顎紐を充分にしてなかったのか、路上に横たわるライダーのヘルメットはどこかへ弾き飛ばされている。翔子はメットを被ったまましばらく様子を伺ったが、ライダーはピクリとも動かない。急いで救急車を呼ぶと、変に曲がった頭の位置を直そうと手を伸ばしたその時、翔子は肩に手を掛けられたのを感じた。いつのまにか彼女の背後に男が立っていたのだ。
「触らないで…。自分は医師ですから任せてもらえますか。」
 翔子は自分の位置をその医師に譲った。