次郎が深々と頭を下げて、哲平のグラスにビールを注いだ。
「そこまでして奪った女と暮らせて幸せか?」
「うーん…、なんとも答えようがないですね。今頃あいつは、でかい腹を突き出して、俺の稼ぎを取り上げようと、家で待ち構えていますよ。」
ビールを飲みかけた哲平の手が止まった。
「出来たのか?」
「ええ、どうやら…。」
「なんだ、お前の話って…それか?」
「ええ、まあ…。」
「いつ生まれるんだ?」
「あと…3カ月で、ご対面です。」
「そうか、めでたいなぁ…お前が父親ねぇ。」
「申し訳ありません。」
「謝ることじゃないだろう。」
「でも、なんか自分でも変な気分ですよ。」
「父親になるんじゃ、お前の好きなライムグリーンのZRX(400 カワサキ)も、しばらくはお預けだな。」
「そんなもんでしょうか…。」
「当たり前だろ。父親になったらそう簡単には死ねないんだから…。」
「聞こえたぞ。次郎君は父親になるのか。」
突然、哲平と次郎の席に初老の男が割り込んできた。
「先生!」
哲平と次郎が声を合わせて叫ぶ。いきなり登場した男は、かつて彼らが悪さをしていた中学時代、彼らを厳しく叱り、そして優しく庇い続けてくれた恩師なのである。教師の類に洩れず酒好きだから、たまに飲む席で遭遇することがある。しかし、ここ最近は哲平も忙しくて顔を合わせていなかった。
「ご無沙汰しています。」
ふたりが挨拶すると、先生は笑顔でまず次郎を眺めた。
「あの次郎君がおとうさんか…。」
遠い目であのという先生の表現で、次郎がいかに手のかかった生徒だったのかが容易に想像できる。
「ええ、まあ…。」
感謝の気持ちを言いだすのもの照れ臭い次郎は、ただ頭を掻きながら先生にグラスを渡しビールを注いだ。
「とりあえず乾杯だ。」
3人は笑顔で祝杯をあげた。先生は自分のグラスを一気に飲み開けると、今度は哲平に向き直る。
「それで哲平君は父親になったのか?」
「えっ、ヤダな先生。結婚もしてないのに、子どもなんかまだまだですよ。」
「そうか…。」
「でも、仕事じゃ、やっと白バイに乗れるようになりましたよ。」
「ついに念願達成か…たいしたもんだ。」
「先生、知ってます。警察官になっても、誰もが白バイに乗れるわけじゃありませんよ。」
「ふんふん。」
「副長、また自慢話ですか…。」
「黙れ。」
「そこまでして奪った女と暮らせて幸せか?」
「うーん…、なんとも答えようがないですね。今頃あいつは、でかい腹を突き出して、俺の稼ぎを取り上げようと、家で待ち構えていますよ。」
ビールを飲みかけた哲平の手が止まった。
「出来たのか?」
「ええ、どうやら…。」
「なんだ、お前の話って…それか?」
「ええ、まあ…。」
「いつ生まれるんだ?」
「あと…3カ月で、ご対面です。」
「そうか、めでたいなぁ…お前が父親ねぇ。」
「申し訳ありません。」
「謝ることじゃないだろう。」
「でも、なんか自分でも変な気分ですよ。」
「父親になるんじゃ、お前の好きなライムグリーンのZRX(400 カワサキ)も、しばらくはお預けだな。」
「そんなもんでしょうか…。」
「当たり前だろ。父親になったらそう簡単には死ねないんだから…。」
「聞こえたぞ。次郎君は父親になるのか。」
突然、哲平と次郎の席に初老の男が割り込んできた。
「先生!」
哲平と次郎が声を合わせて叫ぶ。いきなり登場した男は、かつて彼らが悪さをしていた中学時代、彼らを厳しく叱り、そして優しく庇い続けてくれた恩師なのである。教師の類に洩れず酒好きだから、たまに飲む席で遭遇することがある。しかし、ここ最近は哲平も忙しくて顔を合わせていなかった。
「ご無沙汰しています。」
ふたりが挨拶すると、先生は笑顔でまず次郎を眺めた。
「あの次郎君がおとうさんか…。」
遠い目であのという先生の表現で、次郎がいかに手のかかった生徒だったのかが容易に想像できる。
「ええ、まあ…。」
感謝の気持ちを言いだすのもの照れ臭い次郎は、ただ頭を掻きながら先生にグラスを渡しビールを注いだ。
「とりあえず乾杯だ。」
3人は笑顔で祝杯をあげた。先生は自分のグラスを一気に飲み開けると、今度は哲平に向き直る。
「それで哲平君は父親になったのか?」
「えっ、ヤダな先生。結婚もしてないのに、子どもなんかまだまだですよ。」
「そうか…。」
「でも、仕事じゃ、やっと白バイに乗れるようになりましたよ。」
「ついに念願達成か…たいしたもんだ。」
「先生、知ってます。警察官になっても、誰もが白バイに乗れるわけじゃありませんよ。」
「ふんふん。」
「副長、また自慢話ですか…。」
「黙れ。」



