弾・丸・翔・子

「なあ、どうして入学式を見ると涙腺が緩むんだろうな。なんか、涙がとまらなくてよぅ。」
 次郎の問いにもお構いなく哲平が話し続ける。すると、今度は後ろから眩しいばかりの貴婦人がやってきて、哲平の腕を取った。
「それじゃな、次郎。時間があったらまた先生と飲もうぜ。」
 哲平はコッペイを抱きあげて、貴婦人と腕を組んで平然と歩き去っていった。次郎一家は呆然とその姿を見送った。
「ねえ、哲平さん。お話ししなければならないことがあるの。」
「なんだ、ミカ。」
「コッペイに弟か妹ができたらしいの。」
 哲平の足が止まった。
「本当か?やったぞ、コッペイ。お前もついにお兄ちゃんだー。」
 哲平とコッペイは、抱き合いながら飛び上がって喜んだ。
「だったら早くミカと結婚しなくちゃ。出来ちゃった婚だけど仕方が無いな。」
「それがプロモーズの言葉なんですか?まったく哲平さんにはついて行けないです。」
 ミカが笑いながら言った。
「でも無事に結婚できるかしら…。」
「どうして?」
「私の唯一の身うちは叔父なんですけど、結構怖いんです。許してくれるかしら。」
「大丈夫、恐れず立ち向かうのが本当の勇気だろ。」
「だって1年前、ガスステーションをめちゃくちゃにした上に、ソマン犯人を勝手に確保して、しかも拷問までしたってすごく怒ってたから。」
「えーっ。」
「そうそう、あの時あんなワルはいないって叫んでました。」
「まさかミカの叔父さんって…。」
「そう、テロ対策室長の狩山なの。」
 哲平は頭にあの眼光鋭い室長を思い描いた。初めて自分の勇気が揺らぐのを覚えた。

 気温45度を超える過酷な南スーダンは、しっかり3食を取らなければ身がもたない。それだけ体力消耗が激しいのだ。達也はここでほんの小さな達成感と巨大な挫折感を味わっている。過酷な環境の中で、助けられるいくつの命を失っただろうか。翔子から別れてから、改めて自分のやりたいことを考え、自分の行き先をしっかり見据えた。父の反対を押し切り、使命に燃えて国境なき医師団に参加したのだ。そしてここ南スーダンに派遣されたのはいいが、想像を越える悲惨な状況にいかに自分の認識が甘かったかを思い知った。