弾・丸・翔・子

 翔子はひとしきり笑った後、達也の言葉を聞いて寂しい目をした。
「達也、話しておきたいことがあるの…。」
「おにぎりの中にスカがあるんでしょ。」
 達也は翔子が心に抱えているものを察していただけに、わざととぼけた返事を返す。
「そうじゃなくて…。」
「ええ、解ってますよ。お兄さんの遺品を探しにアメリカ大陸へ行きたいんでしょう。」
 翔子は何も言わず達也を見た。達也が自分を想ってくれる気持ちが解るがゆえに、なかなか切り出せなかったのだ。
「兄貴のもとへ向かっていた命を、達也に引き戻してもらいながら、申し訳ないけど。」
「やっぱり、本気なんですね…。」
 翔子は青い空を眺めながらうなずいた。達也も青い空を見上げて、無理やりおにぎりを飲み込んだ。
「翔子さんが決めたことに、自分がどうのこうの言う資格はないです。」
 言いたくない言葉をなんとか絞り出すように、達也がしわがれた声で言った。
「翔子さんのバイクを海に沈めちゃったから、そのまま僕のバイクを使ってください。そのかわり、必ず返しにきてくださいね。お願いします…。」
 うつむいて小さくなった達也の肩に、翔子が寄り添ってきた。長い髪が風に揺れて達也に腕に優しく触れる。達也は手にしたおにぎりの残りを口に放り込んだ。やっぱり、今日はついていない。彼が手にしていたおにぎりはスカだった。
 その日翔子と達也は峠の頂上で別れることにした。長く細い脚を上げてBMにまたがり、片手をあげてさようならをする翔子。峠の頂上から遠ざかる赤いヘルメットを眺めつづけながら、もうあのバイクのテールを追うことが出来なくなるなと思った。そう思うと、達也の瞳に自然と涙が溢れて止めることができなかった。

 1年後。

「あれ?副長。珍しくスーツ姿でどうしたんです?」
 声をかけられた哲平が振り返ると車いすの次郎がいた。次郎のそばには、おんぶひもで乳児を背負う若妻がいて、哲平に笑顔で挨拶する。
「おう、次郎か…その後リハビリの具合はどうだ。」
「ええあと1カ月くらいしたら車いすからも降りれそうです。」
「そりゃよかった…。」
 いきなり後ろから、コッペイが哲平の長い足に飛びついて来る。
「コッペイくんも一緒でしたか。」
「ああ、さっきまでコッペイの小学校の入学式に出席してたんだ。」
「えっ?父親でもないのにどうして…。」