ドナリィンの恋

「Hey, be careful!(あぶないよ、ドナ。)」
 佑麻は笑いながらドナの体を抱きかかえる。そんな彼の頬を両手で押さえて、ドナは自分の顔をゆっくりと近づけていった。それが二人の初めてのキスだった。佑麻は氷の上にいるのにもかかわらず。心が熱く溶けていく。やがて彼女は顔を離すと、佑麻の唇に薄くついた自分のチークを、細い人差指でふき取った。
「Kuya Yuma, Sabi ko na nga ba salbahe ka eh.(佑麻。やっぱりあなたは悪い奴だわ。)」
 佑麻は、抱きかかえたドナを、いつまでもいつまでも下さずに、ふたりだけのスケーティングを楽しんだ。

 会社の残業で遅くなったドナの叔父は、偶然彼の家の前にいる二人を目撃した。二人は結んだ手をなかなか離さず、どう考えても長すぎる挨拶を交わしている。ようやくドナが玄関を開けて家の中へ入っていった。上機嫌で車に乗り込もうとする佑麻に、叔父が話しかけた。
「いい車だね。君のかい?」
 突然問いかける主に戸惑いながらも、相手が以前会ったドナの叔父であることがわかると、佑麻は緊張しながら答える。
「自分は学生ですから、車は持てません。これは医師の兄から借りてきました。」
「そうなんだ…。いかにも馬力がありそうだね。」叔父は、しばらく車を眺めまわしていた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。自分は石津佑麻といいます。今日 自分の大学のサークルのパーティーにドナリィンさんをお誘いして、今お送りしたところです。」
「君はたしか、ドナに大酒飲ませて乱暴しようとした彼だよね…。」
「いや、乱暴と言うわけでは…。」
「ドナもそんな君となんで親しくなったのだろうね。」
 佑麻は答えようがなかった。
「少し時間あるだろう。歩かないか。」
 叔父の誘いを断るべくもなく、佑麻は黙って従った。しばらく歩くと、小さな公園にたどり着いた。叔父は、ポケットからタバコを取り出して口にくわえる。
「君は吸うのかい?」
「いえ、吸いません。」
「そうか、偉いね。」そう言いながらくわえたタバコに火を点けた。