オキクの復讐

 診察室のドアを開けて入ってきたのは、ユカとヒロパパであった。
「あら、先日はお世話になりました。どうぞお掛けになってください。」
「はい。こちらこそすっかりお世話になってしまって…。」
 石嶋がユカを膝に抱きながら、診察用のいすに座る。
「今日はどちらを診たらよろしいのかしら。ユカちゃん?それともヒロパパ?」
「ユカと自分のことでご相談があって…。ちょっとユカに聞かれたくないのですが、外に出していいですか?」
 ナミは石嶋をしばらく見つめた。楽しかったあの一日を思い出した。しかし帰りのタクシーの中で、医師であることに徹しよう決心したのだ。石嶋への思いが募れば募るほど、言葉は冷徹な医師の口調になってしまう。
「私は医師です。健康に関することしか答えられませんよ。」
「はい…。」
 ナミは、看護師にユカを連れ出してしばらく相手をするように指示した。ユカが部屋を出ても、石嶋はしばらくもじもじして話し始めない。
「他の患者さんがお待ちですから、早くお話し下さい。」
「はい。…実は仕事や将来にとても強い影響力がある人から、結婚を勧められています。相手はその人の娘なんです…。」
「何度かデートされていた方と違う方かしら?」
「いいえ、その人です…。でも、どうもユカの事は受け入れてくれないみたいで」
「デートにユカちゃんを連れて行ったんでしょう?」
「あっ、受け入れてくれないのは父親の方でして…。お付き合いしている女性は、ユカを連れて行った時優しくしてくれたんですが、正直まだどうだかわかりません。」
 ナミは黙って石嶋を見つめていた。
「この結婚を考えようと思っても、もしユカが先生のおっしゃっている通りだったら、ユカが心配で…。逆に、ユカは落ち着いた両親がそろったところで育った方が、自分みたいな半端な人間のもとにいるより幸せになれるんじゃないかとも思うし。それにユカの為に自分の夢をあきらめても、後々ユカは本意じゃないと悲しむかもしれないし。」
 黙って石嶋の話を聞いていたナミだったが、ついにキレた。
「石嶋さん、あなた馬鹿ですか?」
「えっ?」