オキクの復讐

「自分が周りの友達とちがうとわかりはじめたのは、中学のころだった。みんなのように、女の子に関心を持つことができなかったんだ。だからと言って男が好きなわけではない。ただ単純に女の子に興味が持てない、いやむしろ嫌いだったんだ。なぜ自分がそうなったのかわからない。でも世の中は男と女しかいないだろ。そのうち、女性に対して性的にも精神的にも興味が持てない自分に悩み始めるようになった。高校生になってもかわらず、悩みを振り払おうと必死に野球の練習をしていたある日、自分が見つめられていることに気づいた。それも今まで感じたことのないような暖かな、そして落ち着いた視線だったんだ」。
 石津先輩は私が見ていたのをわかってたんだ。希久美は身体を硬直させて泰佑の言葉を待った。
「学園に居る時も、グランドで練習している時も、その視線は自分を柔らかく包み込んだ。とても心地よかったんだ。誰に見守られているんだろうと探して、ようやくその主を突き止めた。でもその主が、今まで興味が持てなかったはずの女の子であることがわかって、正直驚いたよ。そして、高校も卒業しようとしている頃、やっとその女の子と話すことができた。自分はその娘に賭けてみようと思った。」
 希久美は、手紙を渡したあの日を思い出した。
「彼女と初めて会って、待ち合わせ場所でいきなり彼女を抱きしめた。彼女もびっくりしたろうな。彼女には悪いけど自分の身体の反応を確かめたかったんだ。驚いたよ。普通の男の子のように、体に力が満ちた。そしてその日、ようやく男になることができた。」
 なんだと、ただ自分が男であることを確かめる為だけに、私を抱いたってことなの。怒りがまた湧いてきて、希久美は泰佑の抱擁から逃れようともがいた。しかし、泰佑はその腕を強く絞り、希久美を離さない。
「話はまだ続くんだ。聞いてくれよ。」
 泰佑の切実な口調に、希久美もおとなしくなった。