オキクの復讐

「シミ抜きで服を渡しちゃったんだからしょうがないじゃない。何着ればいいっていうの。それにいいのよ。恋人だから。」
「恋人って…。今日は振りだろ。ここまではやり過ぎだろう。」
「さっきから、なんで私の顔見ないの。」
「夜景の方が綺麗だから…。」
 緊張しちゃって可愛い奴だ。そう思いながらも、希久美は泰佑の身体に薬が浸透するのを冷静に待った。確かテレサは、5分くらいから効き始めるって言ってたわよね。相変わらず泰佑は夜景を見ていた。経過する時間を確認して、いよいよ希久美は後ろから泰佑の肩に手をまわした。豊かとはいえないまでも、希久美の柔らかい乳房がバスローブ1枚を隔てて泰佑の首筋に触れた。
「何するんだ。」
「いいから、もっとりラックして…。」
 希久美は薬の効果を信じて、後ろから泰佑の首筋にキスをし、耳たぶを軽く噛んだ。泰佑はまったく動かない。
「今は振りをやめて、泰佑と愛し合いたいの。」
 泰佑の耳元でそう囁くと希久美は前に回る。泰佑は震えながら目を閉じていた。希久美は、泰佑の両頬を手のひらで支えると、ゆっくりと顔を近づけ、唇にキスをした。意外なことに、そうまったく意外なことに、その時希久美の頭のてっぺんで鐘が鳴った。それも半端な音ではない。あまりの音量に、頭の中が真っ白になった。意識が飛びそうになった。もし今、強く抱きしめられてたら、確実に意識が飛んでいたにちがいない。あの時の記憶が無い理由がわかった。しかし、今回は泰佑は抱きしめてこなかった。ゆっくりと顔を離すと、これも意外なことに、閉じた泰佑の瞳から、涙が流れていた。やがてとまどう希久美の肩に泰佑は優しく手を回すと、窓の方を向かせて座っている自分の膝に抱きあげた。後ろから希久美を抱きしめて、ゆっくりと話し始めたのだ。