オキクの復讐

「でもね、街の朝を見ると時々思うの…。朝になれば、貧しい家にも、お金持ちの家にも…すべての人の家に朝日が降り注ぐじゃない。なんか、平等ってこういうことなんだなって感じがしたの。」
「そうかな…。」
「たとえ悪い奴でも、朝になればいい奴と同様に朝日が当ってしまうのよね。」
「いてっ、なんでつねるんだよ。」
「なんか、この絶対的平等ってやつに腹が立つのよ。」
「それが俺となんの関係があるの?」
「知ってた?恋人は一番近くに居る相手だから、時にはこういう理不尽な目にも遭わなければいけないの。」
「だから、恋人なんて頼んでないから…。」
「さて、次へ行く時間ね。」
 次の場所は、東京国立近代美術館だ。泰佑が入場券を希久美に渡すと、希久美は、泰佑の腕を取り足早に歩きはじめる。数ある名作を歩き抜け、ある作品の前に直行する。それはシャガールの『真夏の夜の夢』であった。希久美はその作品の前に陣取ると、じっと動かなくなった。腕を取られた泰佑も並んでしばらく眺めていたが、絵そのものは美しいと思うが、シャガールの幻想世界であるがゆえにその絵の意味がよくわからない。
「オキク。この絵はどんな意味があるの?」
「泰佑は絵の見方を知らないのね。絵はね、理解するんじゃないの、感じるものなのよ。この絵から、何を感じる。」
「鹿なのかな、牛なのかな、とにかく獣の頭を持ったおっさんが友達の結婚式に出席したんだ。そのおっさんの顔が赤いから、きっと披露宴で酒を飲み過ぎたんだろうな。それで酔っぱらって、調子に乗って嫌がる友達の花嫁さんに抱きつき、周りからひんしゅくをかっているってとこかな。」
「あんたの想像力には言葉が出ないわ…。」
「ほめてくれてありがとう。」
「呆れてるのよ!」
「ならオキクは?」
「男と女のちがいよ。みずからの欲望や感情を顔に出せるから男であり、本当の気持ちや欲求を顔に出さず、心に秘めるからこそ女なの。見て、この憂いに満ちた女性の表情を…。」
「やっぱ女って怖いよな…。」
「やっとわかった。女ってのは、心の中で渦巻く本当の想いは顔に出さないものなのよ。恨みなんか特にね…。」
「いてっ、なんで足を蹴るんだよ。」
「恋人ってのは、本当の想いをぶつけられる相手のことを言うのよ。」
「話の流れがよくわかんねえよ。」