オキクの復讐

 石嶋はこの言葉を口にしながら、なぜかナミを想った。昨日は不思議なきっかけで、ナミと一日を過ごすことになった。ユカと自分の強力な味方であるナミ先生の『先生』が取れ、ヨボになってすごした休日。そして、帰り際の態度の急な変化。ナミのタクシーを見送った時のわずかな喪失感。そんな記憶をたどっている石嶋だったが青沼の言葉で我に帰る。
「実は希久美がこの前に会ったと言っていたんだが…。石嶋君は亡くなったお兄さんのお子さんを預かっているそうだね。」
「はい。」
「そうか…。別にプライベートなことを聞くつもりはないんだが、この先ずっとそのお子さんと一緒に暮らすつもりかい?」
「一応、いい里親を探しておりますが、まだ見つかっておりません。」
 青沼は、石嶋の答えを聞くと、しばらく無言でいたが、やがて弁当に視線を落として話し始めた。
「私はね、この弁当を作ってくれた女性との結婚を考えた時、彼女に子供が、つまり希久美のことなんだが、居ることにとても悩んでね。父親になれるのかとか、娘に受け入れてもらえるのかとかね。」
 石嶋はだんだんビーフシチューの味がわからなくなってきた。
「暮らし始めてからも苦労が多かった。希久美はもちろんとてもいい子だ。だからこの苦労は、希久美に苦労させられたというわけではなく、親として未熟な自分への失望感なんだな。実際、親になる準備ができていないのに、ある日いきなり親になれと言うのは酷な話だ。」
「はい。」
「正直なところ、希久美には私のような苦労をさせたくないと言うのが未熟な義父の親心だよ。石嶋君に希久美を紹介したのは、社員として期待できるだけではなく、希久美に平安でしっかりとした家庭を与えられる家庭人としても、期待できると思ったからなんだ。」
 石嶋は食欲が無くなりスプーンをテーブルに置いてしまった。
「それに…恥ずかしい話、希久美もいい歳だから、何度も恋愛を繰り返しながら、悠長に相手を探している時間が無い。無駄な恋愛をしている暇が無いんだ。」